days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Cutting Edge: The Magic of Movie Editing ※追記あり


昨日触れた、ウォルター・マーチが登場している傑作ドキュメンタリ『カッティングエッジ:編集技術の魔法』を再見しました。
私が観たのは『ブリット』DVD-VIDEOの特典ディスクに収録されている98分の全長版。
これ、BBCNHKの共同製作なので、NHKでも放送されていたようです。
『ブリット』本編をDVDを観たのが2006年で、その割と直後に観たように思いますので、約5年半振りですか。
今回と前回で大きく違うのは、今回はマイケル・オンダーチェ著『映画もまた編集である-ウォルター・マーチとの対話』を読み終えてから観た、という事。
同書で触れている内容や人物も一部登場するので、読み終えてから観て良かったです。
もちろん、同書を読んでいなくても全然問題はありません。
例えば、マーチが語る『地獄の黙示録』冒頭のモンタージュ等、本とダブっていますが、やはり映像と音響で説明されると説得力がありますしね。


映画における編集技術の誕生から始まり、現代の編集の傾向などにまで、キャシー・ベイツのナレーションと各映画人が語ってくれる内容が非常に興味深く、面白い。
最初期の映画は編集などなく、延々と事象を映していた、言わば見世物だったのが、編集技術の発生という革新技術が生まれ、観客を飽きさせない娯楽産業へと発達します。
やがてクロースアップの誕生、レフ・クレショフによるモンタージュ効果(クレショフ効果)、ジャンプカット等、新しい技術が生まれていくのです。
これらのついて語る映画人の顔触れが物凄く豪華。
ジョディ・フォスターアンソニー・ミンゲラショーン・ペンマーティン・スコセッシロブ・コーエンクエンティン・タランティーノスティーヴン・スピルバーグジェームズ・キャメロンリドリー・スコットアレクサンダー・ペインジョー・ダンテクリス・コロンバス…といったそうそうたる監督が、編集の重要さを説きます。
ひょっとすると、映画における編集者は過小評価されているから世に紹介しようという、『映画もまた編集である』と同じ動機で製作されたドキュメンタリなのかも知れません。
登場する編集者も、初期ブライアン・デ・パルマ作品の陰の功労者(と私は思っている)ポール・ハーシュ、『ターミネーター2』の立役者達であるマーク・ゴールドブラットコンラッド・バフ、『アラビアのロレンス』や『アウト・オブ・サイト』のアン・V・コーツ、近年のスピルバーグ作品全てを担当しているマイケル・カーンらがぞろぞろ登場して、映画のクレジットでいつも編集者の名前には注目している私からすると単純に嬉しい。
一方、昨年秋に急死した、タランティーノ全作品を担当していたサリー・メンケが元気な姿で登場すると、しんみりしてしまいましたが。


さてウォルター・マーチは、担当した『コールド マウンテン』での実際の編集作業を行って見せてくれます。

これは『映画もまた〜』でも触れられていた、自宅の編集作業部屋でしょう。

画像左が出来上がりを確認するモニター、マーチ正面には2つディスプレイがあり、それぞれ編集対象ショットやタイムライン等が表示されています。
因みに立って作業するのはマーチしか聞いた事がありません。
特別あつらえの立って作業出来る台でマウスとキーボードを使って、マーチは編集を行います。
画像右側の壁面にあるのが、やはり『映画もまた〜』で触れられていた写真ボード。
撮影素材を印刷したものをシークエンスごとに張り出して、これを上下左右眺める事によってどのショットとどのショットが繋げられるのか、脚本からは読み取れないインスピレーションが得られる、という事です。
こうしてみると、彼ら編集者は監督とは別の点で映画を創造しているのがよく分かりますね。


時間を忘れて編集作業に没頭してしまうという彼ら編集者の声に、北野武が映画製作で1番面白いのは編集だ、と言っていたのを思い出しました。
膨大な量の撮影素材から映像を並べ替え、より効果的なものを狙う彼らは、この仕事の創造性に取り付かれた人々なのでしょう。
そんな映画の魔力の一端を紹介している点でも面白く、これはお勧めのドキュメンタリなのです。


但し日本語字幕でやたら気になった事がありました。
それは「カット」という単語の使い方。
日本の映画用語では「カット」とは場面を構成する映像、つまり英語で言う「ショット」の事です。
ゲームでもよく「カット・シーンが…」等と言いますよね。
あれは完全な誤用です。
本来、フィルムを切って(カットして)繋げる、ショットとショットのつなぎ目をカットと言うのですから。
つまりカットとは映像が無いのです。
これが日本では間違って広まったのが真相のようです。
当然ながら「カット」は英語でもあるのですから、本編の映画人達はこの言葉を使います。
これが字幕だと「ショット」「イメージ」等は「カット」、「カット」も「カット」になっていて、意味が通っていない箇所も見受けられました。
編集を扱った作品の字幕なのだから、そこは気を付けてもらいたかったですね。


ともあれ、これは抜群に面白いドキュメンタリとしてお勧めなのです。
しかしこうなると、映像編集だけではなく、音響編集に関する長編ドキュメンタリも観たくなりますね。
音響によって場面の雰囲気も変わってしまうのは、本作にも触れてある通り。
そこをもっと深堀して映画史も絡めて紹介してくれないものでしょうか。
誰か作ってくれないものかなぁ。

ブリット [Blu-ray]

ブリット [Blu-ray]

ブリット スペシャル・エディション [DVD]

ブリット スペシャル・エディション [DVD]