days of cinema, music and food

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Source Code


邦題『ミッション:8ミニッツ』が不評の『ソース・コード』を鑑賞しました。
公開2日目の土曜朝いち10時からの回は20人の入り。
まぁ、集客はこんなものなのでしょうか。
因みにネット上で不評なのは飽くまでも邦題であって、内容は好評のようです。


コルター・スティーヴンス大尉(ジェイク・ギレンホール)は、走る通勤電車の中で目覚めました。
目の前の見知らぬ女性クリスティーナ(ミシェル・モナハン)から「ショーン」と話しかけられたコルターは、混乱した頭で洗面所の鏡を覗きます。
そこに映っていたのは見知らぬ男…恐らくショーンという男でした。
そして突如、列車は大爆発を起こします。
再び目覚めると、そこは軍事施設の中の一室でした。
コルターが体験したのはシカゴ郊外で大爆発し、乗客全員が死亡した爆弾テロによる犠牲者最後の8分の意識だったのです。
彼に与えられた任務は、意識だけ過去に戻ってテロ犯が誰かを突き止める事。
犯人の次のテロを事前に防ぐ為です。
しかし過去は改変出来ません。
コルターは再び過去の人間ショーンの意識に戻されます。


時間旅行SFと平行宇宙SFの巧妙なアレンジ版で、かなり面白かったです。
過去に戻るたびに微妙に状況が違うのが面白い。
上映時間1時間半の中に、様々な要素を詰め込み、飽きさせません。
出だしはスリラーとして始まり、それからSF、恋愛、ドラマ、と徐々に様相を変え、最後には感動的に締めくくる…と思わせて、まだ先があるという欲張りなもの。
ベン・リプリーの脚本が光ります。
監督ダンカン・ジョーンズは、処女作である前作『月に囚われた男』を見逃したのですが、SFマインドのある小味なスリラーが得意なのでしょうか。
同時にドラマも嫌味なくしっかりと描ける注目の新人です。
本作が面白いのは、爆弾探し、犯人探しのプロットを持っているのだから、いわゆるスリラーになりそうなものの、主題が徐々に変質して行くところです。
爆弾の場所も犯人もあっさり判明するのに、そこから主人公がどう変わって行くかが主題となっていきます。
つまりはSFスリラーとして始まった映画は、巧妙に若者の成長物語へとシフトしていくのです。
縦軸のスリラーがしっかりしているので、スリラー映画を期待していた私も期待を裏切られる事なく、また違和感を感じる事なく大いに楽しめました。
むしろ、こういった良く出来た小味な映画は大歓迎です。


舞台が列車の映画に駄作無しと言われますが、本作もその例に漏れません。
もっとも、列車の移動感は余りなく、また舞台が列車内、コルターが閉じ込められている部屋、その外にある軍事基地内と、3個所にほぼ限定されているので、作品世界がやや舞台劇っぽく思えるのと、すべてがかっちりし過ぎていたのが気になりました。
元の脚本には無かった、ジョーンズが追加したというラストのくだりですら、いささか蛇足だと思いつつも、そうしたくなった気持を察して、許せてしまいます。


主役ジェイク・ギレンホールは、嫌みなく主人公の成長を演じて素晴らしい。
観ていて安心出来る俳優ですね。
女優ではミシェル・モナハンよりも、コルターに指示を出す大尉役ヴェラ・ファーミガが印象に残りました。
冷徹に指令を出しながら、徐々に人間味を出して行くさじ加減が上手い。
マイレージ、マイライフ』でも素晴らしい演技を見せていましたが、本作でも魅力的だったと思います。
ずば抜けた美女でも無いのでしょうが、色気を感じさせる不思議な女優ですね。
作戦の責任者である博士役ジェフリー・ライトも、彼にしては珍しく冷徹な役。
しかし単に悪いのかどうかというと疑問ですね。
博士は博士で大勢の人間を救おうとしているのですから。


オリジナルポスターも含めてヒッチコックへの敬意を忍ばせながら(『北北西に進路を取れ』でしょう、これは)、きちんと現代の映画に仕立て上げたスタッフ達の意気込みと力量を認めたいもの。
良く出来ているし、記憶に残る映画として、お勧めです。


本作の日本でもキャッチコピー「このラスト、映画通ほどダマされる」は、邦題と共に見当違いなのも追記しておきましょう。
まぁ『ミッション:インポッシブル』を連想させる題と的外れなキャッチコピーで、少しでも集客したいという苦肉の策なのでしょうが、逆に良く出来た映画自体を貶めているのが残念です。