days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Winter's Bone


今年のアカデミー賞主演女優賞助演男優賞候補となった『ウィンターズ・ボーン』をレイトショウで鑑賞しました。
公開初日の土曜21時35分からの回は20人程の入りです。
この日は午前中にSF、夜にノワールを観て、共に佳作でした。
これだから映画好きはやめられません (^-^


ミズーリ州の田舎町で、17歳の少女リー(ジェニファー・ローレンス)は、病気の母と幼い弟と妹の世話をしながら、その日暮らしの生活を切り盛りしていました。
ある日、かつて家を出て逮捕されたドラッグ・ディーラーの父が、仮釈放中に行方不明となってしまいます。
仮釈放は家と土地が担保になっていて、裁判に出なければ家も土地も取り上げられ、一家は路頭に迷う事になります。
リーは独力で父を探そうとしますが、田舎町の闇に入り込んでしまう…というヒルビリーノワールでした。


ミステリ趣味もありながら、ちゃんと少女の通過儀礼(しかもかなり強烈)となってもいるし、残酷な御伽噺にもなっています。
色々な要素があって一筋縄では行かない映画でした。
しかも出てくる役者が、皆強面で凄い迫力。
その中に、まさかの『ツイン・ピークス』の世界一美しい死体ことローラ・パーマーを演じたシェリル・リーがいて、違和感無かったのがある意味ショックでした。
生活苦が滲み出ているかのようだった。
まぁノーメイクだったから、というのもあるのでしょうけれども。
荒れていたのは地元民の面だけではありません。
風景も荒涼としていましたし、また田舎町が麻薬で汚染されている設定なのも驚きでした。
これもアメリカの現実を映し取っているとの事です。


脅迫に屈せずに謎を追う主人公が、リンチなど痛い目に遭って傷だらけになりながら真相を求める…というのはハードボイルド探偵ものの定石に沿ったもの。
しかし脚本(アン・ロッセリーニと共同)と監督のデブラ・グラニックの目線は、明らかに少女に寄り添っていて、荒れ果てた救いの無い世界の中を描きながら、観る者に希望を抱かせます。
それが特に明快に出たのがラストでしょう。
まだ無垢なる者に未来を託されたようにも思いましたが、同時に貧困も継承されていくのかも…とも思い、観ていて少々複雑な気持ちになりました。
ダニエル・ウッドレルの原作はまた違う味わいだそうですが、映画は本作のタッチで良かったと思います。
また全編に流れるフォーク/ブルーグラス音楽もあって、これも作品世界の構築に効果的でした。


ヒロインのリー役は『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』で若き日のミスティークを演じていたジェニファー・ローレンス
老成した少女の悲しみを抑えた熱演で表現していて素晴らしい。
俄然注目の女優ですね。
それと善人だか悪人だか分からない、伯父役のジョン・ホークスが凄い。
登場するだけで緊張感が漂っていました。


撮影はレッド・ワン・カメラでしたが、HD臭くないフィルムに近い質感の映像でした。
ロケ撮影が多く、しかも光源の少ない森の中が多かったでしょうから、高感度のHDカメラは低予算映画でより重宝された事でしょう。