days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Girl with the Dragon Tattoo


1年も前から拙blogで騒いでいる、デヴィッド・フィンチャーの新作『ドラゴン・タトゥーの女』を観て来ました。
日曜午後の回、南町田109の183席の劇場は4割から5割の入り。
HD撮影作品なので出来ればデジタル上映で観たかったのですが、残念ながらフィルム上映でした。
ですが内容にはかなり満足しました。


ストックホルムで富豪ヴェンネストロムの汚職を追っていた社会派敏腕記者ミカエル(ダニエル・クレイグ)は、記事に対する名誉毀損裁判で敗訴してしまいます。
失意の彼の調査能力を買って、同族経営の大企業を率いる会長ヘンリク・ヴァンゲル(クリストファー・プラマー)は、ミカエルにある依頼を出します。
40年前、一族が住む小島から忽然と姿を消した少女ハリエットの行方を探し出し、犯人を突き止めてもらいたい。
その為には一族の恥部を洗いざらい調べても良い、と。
報酬はヴェンネストロム汚職の証拠、と言われたミカエルは、早速調査を開始します。
一方、痩身小柄な23歳のリスベット(ルーニー・マーラ)は、攻撃的で他人に心を閉ざす、全身ピアスに背中に竜の入れ墨を入れたパンクでした。
映像的記憶と天才的クラッカーでもある彼女は、敏腕調査員でもありましたが、過酷な生き方を強いられていました。
ミカエルはリスベットに調査協力を依頼、やがて2人はヴァンゲル一族の過去と、歴史に埋もれた忌まわしい事件に突き当たる事になります。


スティーグ・ラーソンの原作も読んでいますし、その最初の映画化であるスウェーデン映画のオリジナル版も劇場で観ています
結論から言うと、これは最上の映画化でした。
長大で複雑な原作を持ちながら、オリジナル版よりも端折った感が無く、名手スティーヴ・ザイリアンは上手に脚色しています。
もっともこれは、私の原作の記憶が薄れているからという可能性もあります。
オリジナル版との最大の違いは、前者がミステリ重視だったのに対し、こちらはドラマ重視になっていた事でしょうう。
その違いは特にラストに打ち出されていました。
中盤まではダニエル・クレイグと対等の主演に見えていたルーニー・マーラは、後半になって更に存在感を増し、鑑賞後は実質的な主役だと印象付けます。
オリジナル版でリスベットを熱演していたノオミ・ラパスよりも、原作のイメージに近かった。
これはエキセントリックでハードな面を強調していたオリジナル版に対し、本作はより立体的な人物造形になっていたからです。
だから原作第2部で明かされる彼女の過去に関する重要な台詞が、本作終幕に用意されているのも、ドラマとしては十分に納得の行くものでした。


本作を観ると、監督のデヴィッド・フィンチャーは、初期作品の『セブン』や『ファイト・クラブ』ような映像偏重主義に戻る気が全く無いのがはっきり分かります。
空間の広さや狭さに対する鋭い感覚も含めて映像はさすがですが、どれも物語に奉仕しており、映像主体ではありません。
サスペンスやスリルのある場面もそこだけ突出してはおらず、飽くまでも「物語を物語る」姿勢に徹していました。
つまりは、『ゾディアック』以降の、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『ソーシャル・ネットワーク』の延長上に位置する作品なのです。
しかし娯楽性という点では、これら3作品の中でも1番娯楽色が強い。
レイプや連続殺人事件といった要素も含めて、一見するとどぎついミステリ/スリラーとして始まったように見えるけれども、若い女性の成長と悲恋というドラマに着地させ、それが見事に決まっていました。
しかも随所にユーモアを挟み、緊張感の緩急の付け方も上手い。
特にブラックなのがエンヤの『オリノコ・フロウ』の使い方です。
あれはスタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ』に匹敵するインパクトでした。
これらフィンチャーの手腕を円熟と言うか、角が取れて面白味が無くなったと言うかで、評価が分かれるかも知れません。
私は面白さを残しつつも、監督としてすっかり一流になったと思います。


フィンチャーらしいとんがった映像が存分に楽しめるのは、自ら編集を手掛けたという冒頭のメインタイトル・デザインでしょう。

レッド・ツェッペリンの『移民の歌』をカバーし、007もかくやという華麗でおどろおどろしい世界。
リスベットの悪夢がテーマだそうですが、なるほどと思いました。
また、明度の高いHD撮影により、北欧田舎町の出来事がクールなルックで描かれているのは、作品の印象をかなり決定付けているでしょう。
フィルム撮影だったオリジナル版『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の方がより陰惨な印象を与えるのも、多少関係しているように思えました。


最悪なのはモザイクです。
わずか10秒ばかりの出現で、あれだけ場をブチ壊す所業も中々ないでしょう。
このR15+の映画は、私が鑑賞した時はどうみても20代以上、殆どが30代以上の観客ばかりでした。
R15+を狙って修正するよりも、R18+で無修正にすべきではなかったか。
少しでも観客を集めて資金を回収したいというSPEの考えは分かりますがが、R18+でも収益は大差無かったのではないでしょうか。
むしろ、モザイクによるネット上の悪評は避けられた筈です。
その声を受けてか、急遽モザイク無し版がR18+として六本木で6日間限定で公開されるますが、今更感が強い。
公開しないよりかはマシという程度で、何ら評価されるべきではないものです。
むしろ、公開されるのがが当然。
国内版DVD/BDはこちらでのリリースをしてもらいたいものです。
デジタル上映版でもう1度観たい者としては、上記上映に足を運ぶかどうか…迷うものでもあります。