days of cinema, music and food

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Young Adult


ジェイソン・ライトマン監督の新作『ヤング≒アダルト』をミッドナイトショウで観て来ました。
公開1週目の金曜23時40分からの回、観客は私を含めて2人のみと寂しいものでした。


ヤング・アダルト(若者向け)小説のゴーストライター、37歳のメイヴィス(シャーリーズ・セロン)は、毎晩飲んだくれ、男とデートしてはその場限りの関係を結ぶなど、荒れた私生活を送っています。
一時はベストセラーだったシリーズも打ち切りが決まり、今後の予定は立たないまま。
公私共にどん詰まりな彼女の元に、高校時代の恋人バディ(パトリック・ウィルソン)に赤ん坊の誕生パーティ招待状が届きます。
意を決したメイヴィスは長年ご無沙汰だった田舎町の故郷に戻ります。
バディは運命の人であり、自分と結ばれなくてはならないと思い込んだ彼女は、何とかバディを振り向かせようとしますが。


映画を観ながら「ジコチュー」「タカビー」といった軽薄な言い回しが脳裏に浮かんで仕方ありませんでした。
文字通りメイヴィスは、「ジコチュー」「タカビー」が服を着て歩いているような女なのです。
監督は『サンキュー・スモーキング』『JUNO/ジュノ』『マイレージ、マイライフ』のジェイソン・ライトマン
デヴュー作から全て佳作、どれも面白い映画を送り出しています。
映画監督としては父のアイヴァン・ライトマン(『ゴーストバスターズ』等。『デーヴ』は良かった)よりも才能豊かなのは明らかですが、作品を重ねる毎に段々と笑いが少なくなって来ました。
本作は前作の『マイレージ、マイライフ』よりも、さらに辛らつで痛い映画になっています。
メイヴィスは目の下は隈、肌は私生活同様に荒れていますが、彼女が厚塗りメイクで完全武装する場面も含めて、赤裸々で身も蓋も無い主人公の言動が面白い。
彼女自身は高校時代の女王様気分が抜けず、故郷に戻っても不動産関係の仕事で多忙だと言い張りますが、会う人会う人、皆彼女がゴーストライターだと知っています。
本人だけが嘘がばれていると気付いていないのです。
こんなヒロインですが、『JUNO/ジュノ』でもライトマンと組んでいた脚本家ディアブロ・コディの同性ならではの目線だからでしょう。
そして、いやぁ、やるなぁ、シャーリーズも。
美女が痛い女を演じる事で、さらに痛くなっているのです。


コディの脚本は人物像が鮮やか。
特に主人公と、彼女のグチ相手となる元同窓生マット(パットン・オズワルド)の造形が面白い。
マットは高校のときにホモ疑惑をかけられ、悪ガキどもの襲撃を受け、松葉杖が無ければ歩けず、ペニスもダメージを受けた障害者となっていて、フィギュアの色塗りと密造酒製造に熱心なデブのオタクという設定。
2人の共通点は自分の過去の囚われ人である事。
メイヴィスは学校から注目を浴びていた華やかな高校時代から成長せず。
マットは卑屈な高校時代から変わっていません。
その2人が奇妙な友情らしきものを積み上げていくのも面白い。
ここには、作者のはぐれ者への共感や感傷はありません。
乾いた笑いがあるものの、突き放してはいない。
この距離感が映画を嫌味の無いものにしています。


ここまで己の情けなさに無自覚、他人の感情などに興味のない女性を主人公にしたのも珍しい。
彼女はきっと「変わらない」し、「変われない」でしょう。
同時に、メイヴィスはしぶとく打たれ強い。
自分の脳内で作り上げた帝国と世間からの視線のギャップなど気にもせず、ブルドーザーのように道なき道を切り開いて行くであろう頼もしさに溢れています。
ここまで徹底していると、善悪好悪を突き抜けて、彼女に声援を送ってしまうではないですか。