days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Carnage


ロマン・ポランスキーの新作『おとなのけんか』をミッドナイトショウで鑑賞しました。
客は私を含めて3人、全員男性のみ。
TOHOシネマの興行形態はありがたいけど、このまま続くのかどうか、人ごとながら気掛かりです(^^;
だって私のように妻子寝静まってから、もしくは娘が寝静まってから映画を観に行きたい人にとっては、ミッドナイトショウは便利なんですよね。


さて本作の原題は「殺戮」とか「修羅場」の意味です。
子供同士の喧嘩を穏便に解決すべく集まった2組の夫婦。
和やかに話し合って簡単に済むと思ったら…という内容で、原作は『殺戮の神』『大人は、かく戦えり』の題で日本でも上演されているヤスミナ・レザ作の舞台劇。
冒頭と結末で子供が戯れているニューヨークの公園が映る意外は、1組の夫婦のアパートメントの中だけで全てが進行する密室劇となっています。
その冒頭と最後を飾るアレクサンドル・デプラの音楽が素晴らしい!
リズミカルで期待を盛り上げます。
劇中、映画音楽が流れるのはここのみ。
物語らしい物語はなく、目まぐるしく変化する人物関係を動物観察するかのように観るのがお題。
敵かと思ったら味方になったり、味方と思ったら今度は敵か、といった状況の変化が面白いのです。
これをリアルタイムでやっているので観客にとっても逃げ場は無く、また愉快な内容ではない筈だし、皮肉な笑いも多い。
でもテンポが良く79分という短い上映時間もあって、大変楽しめました。
これが90分だったら居た堪れなくて持たなかったかも知れません。
観ていて色々と心当たりある台詞も人によってあるでしょう。
かくいう私もそう。
でも本作は、そのような痛みを笑い飛ばしているのが好きです。
これをシリアスにやられたら、相当に落ち込む映画になりそう。
例えば『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』など、そうですよね。


4人の役者達の中では、クリストフ・ヴァルツがとにかく可笑しくて楽しい。
しょっちゅう携帯に電話が掛かってくる超多忙な弁護士で、明らかに頭脳明晰、明らかに冷徹な人格欠陥者(^^;
確信犯的な嫌らしい笑みと身体の動きがいちいち面白く、全身が表情豊か。
画面に出ていると目が離せません。
グリーン・ホーネット』なぞより余程楽しい憎まれ役。
イングロリアス・バスターズ』以来の活き活きとした様で素晴らしいと思いました。


ジョディ・フォスターはファンだけれど、もう少し卑屈な感じが出ていても良かったように思います。
でもさすがに上手いんですよね。
あぁいう正義を振りかざす役にドンピシャ。
顔面演技も近年の彼女の役では最高に筋肉を使っていたのではないでしょうか。
その必死さが痛みと笑いをもたらすのです。
うーん、やっぱり上手い。


ヴァルツの妻役でブローカーのケイト・ウィンスレットも好きな役者。
彼女も良かった。
序盤と終盤の落差も凄い。
そこに持っていくまでにかなり緻密なプランを練ったのでしょう。
それで、序盤も終盤もどちらもケイトにぴったりなんですよね。
実は映画で1番驚いたのは、VFXを使った彼女の○○場面。
汚くてビックリ!で大笑い。


ジョディの夫役ジョン・C・ライリーも贔屓の役者です。
序盤の如何にも頭の弱そうで人の良さそうな演技に、『シカゴ』での彼を思い出した。
ところが…という後半の豹変振りにこれまた衝撃で、これも驚きです。
この映画、各役者達の個性と実力を引き出していて、目も耳も楽しませてくれます。
ポランスキー、やるなぁ。
映画的興奮は薄いかなぁ、というのが正直なところです。
それでもラストショット等は映画らしい、またはポランスキーらしい人を食った茶目っ気もあって楽しいのですよね。
機会がありましたらご覧下さいませ。