days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

War Horse


スティーヴン・スピルバーグの新作『戦火の馬』を観て来ました。
公開1週後のレイトショウ、土曜夜21時の回は30人程の入りです。


第一次大戦直前にイギリスの貧しい農村で生まれたサラブレッドのジョーイ。
農家の息子アルバートジェレミー・アーヴァイン)に育てられますが、大戦の開始と同時に軍馬として英国軍に徴用されたのを手始めに、様々な人々の手に渡って数奇な運命を辿って行きます。


物言わぬ美しき主人公の年代記は冒頭から美しい映像が繰り広げられます。
ヤヌス・カミンスキーの人工的な照明は「これは寓話ですよ」という宣言でしょうう。
躍動感のある馬の生命力が映画の牽引力となり、最後まで引っ張ります。
映画ならの愉悦、映像ならではの美。
映画らしい映画を撮るスピルバーグならではの切り口です。
ジョーイは若き頃に、畑を耕す農耕馬として使われます。
岩だらけの荒れ果てた土地を耕し、畑にしないと、一家は地主に追われる羽目になるからです。
ジョーイはいななく事も無く寡黙に馬具を付け、重い農耕具を引きます。
アルバートと共に。
このタフネスがジョーイ自身を鍛え上げ、後に命を落とさずに済みます。
程なくして戦友も出来、戦地で次々と彼に関わる人々が変わり、寡黙な主人公は戦争の悲喜劇の数々を目撃していきます。
しかし彼自身は表情を変えず(少なくとも私には分かりませんでした)、傍観者として佇みます。
寡黙なジョーイは瞳と仕草が最高に美しく、雄弁且つ孤高。
その様が戦争の断面を切り取って行きます。
これは動物映画として非常に面白い試みでした。


映画監督としてのスピルバーグは好調です。
序盤は説明過多が気になりましたが、戦争が始まってからは映像の天才ぶりをいかんなく発揮。
塹壕場面でのタテ移動と戦地での横移動撮影を披露し、スタンリー・キューブリックの名作『突撃』へのオマージュもしっかり込めつつ、ジョーイの数奇な物語を語っています。
映像も役者の演技を引き出すのも、技術は最高です。
とても面白く楽しめたし、素晴らしい場面も多かったのですが、残念ながら深いところまでの感動を覚えませんでした。
期待が大きかっただけに物足りなさも感じたのです。
しかし作り込まれた世界だからなのか、せせこましさを感じた『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』に比べ、広大なロケを生かした撮影により、開放感を感じる事が多かったです。
スピルバーグは作品世界に連れて行ってくれる点で、稀代の監督だと思いました。
ん。
昨夜の映画が舞台劇調だったので、ロングショットで美しい丘陵地帯を捉えた映像が多い本作は、かなり映画を観た気にさせられました。


尚、ジョン・ウィリアムズの音楽も近年の彼の仕事らしく、メロディは殆ど印象に残りませんでした。
水準以上の仕事はしているのですが、物足りない。
近年のウィリアムズは残念ながらそれほど優れた音楽を提供しているとは言い難く、本作もスピルバーグの足を引っ張っているように見えました。
現代ハリウッドに正統派映画音楽作曲家が殆ど居ないという事情もありましょう。
ですが、そろそろスピルバーグは映画音楽担当を替えた方が良いと思います。