days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

"The Artist" and "The Help"


今日も2本立てですよ。
雨降る朝からショッピングモールに家族で出掛けて、映画を観て来ました。


まずは妻子買物の間に『アーティスト』。

土曜の朝9時35分からのデジタル上映は99席の内5割の入り。
アカデミー賞効果があっても興行的苦戦が伝えられる本作ですが、もう少し当たってもらいたい映画です。
笑いあり爽やかな感動ありの軽やかな好編なのですから。
中盤はあと10分ほど短くても良いとも思いましたが、監督ミシェル・アザナヴィシウスと主演の2人が踏むステップを楽しみましょう。


1927年のハリウッド。
サイレント映画の大スター、ジョージ(ジャン・デュジャルダン)は、彼に憧れるエキストラのペピー(ベレニス・ベジョ)にアドヴァイス、それをきっかけにペピーはスターへの階段を駆け上って行きます。
おりしも時代はサイレントからトーキーの時代への移り変わり。
ペピーはその時流にも乗ります。
一方、ジョージはサイレントにこだわって人気を失って行くのですが…。


『スター誕生』何度目のリメイクかと言わんばかりの内容のようですが(私はどれも未見)、単純に楽しめました。
映画自体がモノクロ、サイレントを模しています。
よってサイレント映画を観るのは相当に久々なのですが、「そうそう、サイレントってこうだったよね」等と思い出しながら観ました。
余り字幕が出ないんですよね、サイレント映画って。
基本的に役者の表情と身体の動き、状況を的確に切り取る演出で、ゴテゴテせずに個人芸を見せていきます。
それでも本作が古臭く感じないのは、映像や編集が現代映画に近いからでしょう。


誇り高い主人公がそれ故に堕ちて行く様を描いているのに、周囲の人物が皆、明るく善人なので映画が暗くなりません。
ヒロイン、ベレニス・ベジョの輝く笑顔!
ジョン・グッドマンのやり手プロデューサーでさえ男気があります。
ジョージに忠実な運転手ジェームズ・クロムウェルだってそう。
誰もがジョージを見放しません。
主役のデュジャルダンがどこかジャン=ポール・ベルモンドショーン・コネリーに似ているからか、彼を観ていても「大丈夫」と思ってしまいます。
あの幸せそうな恰幅の良さもプラス。
おっと、飼い主に忠実な名犬アギーにも触れておきましょう。
彼ら2人(1人と1匹)を観ているだけで頬が緩んでしまいます。
名コンビの誕生です。


最大の幸福な場面はやはりラスト。
そうか、そういうアイディアかと登場人物(実際にはそう書いたミシェル・アザナヴィシウス)を嬉しく思うと同時に、やはり芸は身をたすく、等と想起しました。
ショットを細かく刻む愚を冒さず、文字通り芸を見せてくれる映画を観る幸福を久々に感じたのです。


映画史に残る傑作かと言えば、そうでもないでしょう。
でもよく比較される『ヒューゴの不思議な発明』よりもポピュラリティはあるとも思います。
こちらの方がより単純明快で、マニアック(でもないようだけど)に感じられないから。
私もこちらの方が映画として単純に楽しめました。


さてもう1本はレイトショウ。
朝から晩まで、昼寝もせずに上機嫌で遊びまわっていた娘も、20時半には電池切れになったので、これ幸いと私は劇場へ飛んで行きます。
妻はこれまた幸いと、録り溜めした番組を見ます(^^;


さて観たのは『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』。

TOHOシネマズデイで1人千円だからでしょう、土曜21時15分からのデジタル上映のレイトショウは、125席の半分が入る入りでした。
評判も良いですしね。


1960年代初頭、人種差別が根強くあるアメリカ南部のミシシッピ州ジャクソン。
大卒直後で育ちが良く、黒人メイドに育てられた白人のスキーター(エマ・ストーン)は、地元新聞社で家事のコラム担当になります。
ヴェテランメイドのエイビリーン(ヴァイオラ・デイヴィス)の話を聞き、また親友らの露骨な差別意識を目の当たりにした彼女は、メイド達の声を1冊の本にまとめようとします。
だがそんな事をしてばれたら殺されると、メイド達は協力を拒否するのですが。


身体にあった、でもゆったりした上質のジャケットを着たかのような、観ていて幸せになる映画。
人種差別の歴史を考えると甘いという批判はありましょう。
それでも私はこの映画を支持します。
要所は切迫感も描かれていたし、私はこれはこれでありだと思しました。
これは単なる甘い砂糖菓子のような人情ドラマではありません。
主眼は厳しい立場にあった女性達が、男どもに関係無しに結託し、声を上げて立つ姿です。
それを力み無く、しかし喉越しだけ良ければというのではなく、細部にまで考え抜いて作られています。
優れた群像劇にあるように人物の画き分けも良かった。
女優陣達の自意識過剰とは縁遠い連携プレイが素晴らしい。
今気になるスターの1人エマ・ストーンも、ブライス・ダラス・ハワードジェシカ・チャステインというそっくりさん同士も印象に残ります。
ブライス・ダラス・ハワードの嬉々としたビッチ振り。
ジェシカ・チャステインの、物語が進むに連れて実は深かったと判明する役も見ものです。
ジェシカ、君は映画に出る度に全く別人だよ!
先日観たテイク・シェルター』ともそうでしたし。
若くて勢いのある役者を観るのは楽しいです。


でもこれは実質ヴィオラ・デイヴィスが主役でしたね。
鈍感な私は終盤になってそれに気付きましたが、彼女は本当に素晴らしい。
アカデミー賞はハリウッドの祭りだから結果にとやかく言わないけど、少なくともそっくりさん振りに感心しただけのメリル・ストリープより、私の心に届く演技でした。
シシー・スペイシクも元気だったなぁ。


監督のテイト・テイラー昨年観たウィンターズ・ボーン』にも俳優として出ていたらしいけど、まるで記憶にありません。
でも正統派ハリウッド映画の伝統に沿ったかのような、ゆったりとして品が良いだけでなく、ユーモラスで暖かな目線には好感を持ちました。
トーマス・ニューマンの音楽も地味だけど良かったなぁ。
2時間半近くあるけれども、最後まで引き込まれる映画でした。


今日は朝晩と、ユーモラスで優れたドラマを観られて、これもまた満足です。