John Carter - days of cinema, music and food

何故か世間から不当に冷遇されている映画というものが存在します。
2億5千万ドルとも言われている製作費が掛けられた『ジョン・カーター』もそう。
製作費の問題と映画の質は必ずしも合致する訳でもないのに。
映画史上最悪の赤字映画というネガティヴ報道もあって失敗作の烙印を押されているようだし、不出来なポスターや予告編でも損をしています。
実際、Twitterのタイムライン上では酷評は少なかったです。
私は期待してIMAX 3D版を鑑賞して来ました。
日曜朝いちの10時20分からの回は30人程の入りです。

南北戦争の英雄ジョン・カーター（テイラー・キッチュ）は、とある洞窟から謎の光線によって火星へと転送されます。
そこは人間型の赤色人と、身の丈2m以上、腕が4本ある緑色人がいる、高度に文明化された世界でした。
重力の違う世界では、カーターは超人的能力を発揮します。
驚異的跳躍力と腕力を奮えるのです。
緑色人の勇猛果敢且つ思慮深い首領タルス・タルカス（ウィレム・デフォー）や、部族の中で冷遇されている優しい娘ソラ（サマンサ・モートン）らと知り合ったカーターでしたが、火星は戦乱の世界でもありました。
全宇宙の歴史の影で暗躍するサーン族首領マタイ・シャン（マーク・ストロング）の陰謀により、赤色人ゾダンガ王国国王サブ・サン（ドミニク・ウェスト）が操られ、滅亡の危機に瀕していたのです。
そんな中、カーターは赤色人王国ヘリウムの王女デジャー・ソリス（リン・コリンズ）と出会いますが。

久々の正統派SF冒険活劇映画の快作です。
血沸き肉躍る展開で、期待以上に面白かった！
1年前のティーザー予告から不安を抱きながら待っていたのですから、その不安が吹き飛ばされたのは幸運でした。
IMAX 3Dで観ると、壮大且つ魅力的なデザインによる世界に引き込まれます。
砂漠の中で浮かぶ船というのは『ジェダイの復讐（ジェダイの帰還）』を想起させますが、デザインは洗練されています。
3D効果はまぁまぁだったし、ところどころ切り絵みたいな箇所が気になりましたが、2D版より3D版の方が映画に合っているのではと予想しています。
ここには、スター・ウォーズ新3部作やインディ・ジョーンズ4から失われてしまった、SF活劇の楽しさが充満していました（もっとも、スター・ウォーズ旧3部作でも『ジェダイの復讐』は論外）。
全体にはシリアスなのに、含み笑いを許す大らかさ、コメディ要素を挿入するタイミングのセンスの良さ、感情移入するに値する魅力的な人物達が登場し、良く出来ていたと思います。

原作は『ターザン』シリーズでも有名なエドガー・ライス・バロウズの古典活劇『火星のプリンセス』。
小学校の図書館でジュブナイル版は何度も読んで興奮したものです。
原作はこんな話だったっけ？と思いつつ、的確な脚本にも感心しました。
聞くところによると、原作の最初の3冊から各場面を抜き出し、プロットもかなり変えているとの事。
となると、『L.A.コンフィデンシャル』並に脚色がなされているのですね。
絶世の美女である筈のデジャー・ソリスも、事前には演ずるリン・コリンズにインネン付けてた私でしたが、本編ではかなり魅力的でした。
原作と違って衣装が露出不足なとこだけ不満ですが、ディズニー映画だから仕方ないか…(^^;
脚本で1番感心したのは終幕です。
単なる後日談に終わらず、きちんと見せてくれます。
ラストが某SF大ヒット超大作にそっくりですが、こちらの方がエモーショナルに感じました。
そうそう、後半に用意されている、過去のフラッシュバックと交錯していく戦闘場面もエモーショナルで、ここにもちょっと感動したのです。
脚本家はアンドリュー・スタントン、マーク・アンドリュース、マイケル・シェイボンの3人がクレジットされています。

各登場人物の性格付けも明確で感情移入しやすく、これもピクサーで培ったキャラ造形の巧みさを見た思いです。
ジョン・カーターの屈折した性格が徐々に分かってくる展開は、快男児に陰影を付けるのに成功しています。
演ずるテイラー・キッチュも、先日観た『バトルシップ』より役に合っていると思いました。
科学者で戦士という姓格付けがされたデジャー・ソリスも、原作とは違ったアレンジが楽しい。
さらに、映画を観たら忠犬ウーラの可愛さと愛嬌にノックアウトされる人は多い筈。
怖い外見とのギャップも含め、ここら辺も上手い。

そのスタントンは本作の監督でもあります。
ピクサーで『ファインディング・ニモ』や『WALL・E／ウォーリー』を監督した彼の、これは初の実写作品。
子供の頃から原作に思い入れがあったというスタントンは、しかし語り手としては落ち着いたもの。
物語を語る事を優先させつつ、アクションやユーモアをバランス良く配置しています。
先に『ミッション：インポッシブル/ゴースト・プロトコル』のブラッド・バードの成功もあったし、アニメーション映画出身の監督でも才能がある人は実写でも大丈夫、という事のようです。
案外、監督の仕事としては、演技指導をアニメータにするか役者にするかの違いくらいなのかも知れません。

音楽は、こちらも好調のマイケル・ジアッキーノ。
『Mr.インクレディブル』で華やかに映画デヴューし、幾つかのピクサー作品や前述した『ゴースト・プロトコル』も手掛けた俊英です。
メロディを配しながらでしゃばらず、しかし盛り上げるところは盛り上げ、久々に正統派SF大作スコアを聞けました。

エンド・クレジットのキャストにデヴィッド・シュウィマーとジョン・ファヴローの名が、さらに最後のSpecial Thanksにピーター・ゲイブリエルの名がありました。
後者は『ウォーリー』の主題歌を歌った繋がりなのでしょうね。

SF活劇好きにはお勧め映画です。
そして何故、原題から「Of Mars」が外されたのかも分かる映画のエンディングにちょっと感動しつつも、3部作として構想されながらも、恐らくは作られないであろう続編2本への思いを馳せましょう。
また昨夜に続いて、マーク・ストロングとキアラン・ハインズにも出くわしたのでもありました。