ヘルタースケルター
話題の映画『ヘルタースケルター』をミッドナイトショウで鑑賞しました。
毎月14日はTOHOシネマズデイで一律千円というのもあってか、あるいは夏休み気分の三連休初日というのもあってか、今までにない入りでした。
公開初日の土曜23時55分からの回、205席の劇場は4割くらい入っていたのではないでしょうか。
劇場フロアも結構な人でした。
映画館が賑やかなのは嬉しいですね。
その美貌により圧倒的人気を得ているモデルのりりこ(沢尻エリカ)。
実は彼女は全身整形手術によって作られていたのです。
しかし手術による後遺症と、同じ事務所の後輩モデルで素から美女のこずえ(水原希子)の存在により、りりこは心身ともに蝕まれていきます。
前評判が高かったのでかなり期待していたのですが、残念。
まるで乗れませんでした。
岡崎京子の名作同名コミックが、1990年代半ばの発表当時にどのような受け止められたのか、詳しくは知りません。
こちらのコミックは道徳的に非常に真っ当な、意外性のない物語でそんなに面白くありませんでした。
内容は予定調和から外れず、驚きが何もなかったのです。
ですからその原作に比較的忠実な脚色がなされた映画に乗れなかったのは、当然だったのでしょう。
過剰な映像、過剰な演技、過剰な音楽。
全てが偽悪的なまでに過剰な世界では、役者達のその極端な演技と極端な台詞に笑わせてもらいました。
この世界は殆どギャグです。
ポエマーなセリフ連発の検事役の大森南朋。
ヒドい社長振りの桃井かおり。
ヒドい目に遭うマネジャー役の寺島しのぶ。
軟弱でヘタレな御曹司役の窪塚洋介。
彼らの状況や演技には大笑い。
特に大森は出て来るだけで可笑しかったです。
もっとも劇場内で笑っていたのは、私と私の左後ろに居た女性くらいでしたが、その女性はかなりバカ受けしていたのがさらに可笑しかったです。
漫画やアニメは台詞やエピソードが現実よりも圧縮され、飛躍した表現が許されるメディア。
そこが実写映画との大きな違いですし、それが良さでもあります。
しかし漫画を忠実に映画化するとギャグになるのは当然でしょう。
沢尻エリカは振幅の大きい役を大熱演していましたが、原作にあった人間離れしたりりこ像とはイメージが違っていました。
熱演ではあるけど全身整形美女にしてはスタイルが日本人体型なのも減点。
もっともこれは仕方ないです。
あの役を演じられる神々しいまでに美しく、かつ「役者」である人は、今の日本映画界にはいなさそうですから。
とはいえ沢尻が映画の見ものではあるのは間違いありません。
ちょこっとは脱ぐので、「スキャンダラスな言動で話題の女優が主演のスキャンダルな見世物映画」としては、それなりに成立しているのですが。
原作でもりりこはやりたい放題、脱ぎ放題なので、どうせなら映画版も見世物としてそこまでやってくれれば良かったのに、とも思いました。
その意味では中途半端な映画ではあります。
蜷川実花は写真家としては知っていましたが、映画監督作品を観るのは初めてです。
映像は確かにこだわりを感じましたが、その映像が内容に奉仕していません。
画のスタイルこそあれども、人物の心象を映し出しているようには見えず、ただただ己の美意識を前面に押し出しただけ。
そもども人間の心理を描写する事に余り興味がないのでは。
しかもテンポが悪い。
あの程度の内容で2時間強は長過ぎます。
全体にこってりした熱が籠った演出なのは分かりますが、1場面1場面、これは長過ぎるのではと思える箇所が目に付きます。
それと何故か東京の屋外場面は渋谷ばかりなのも気になりました。
渋谷は若者の街だから、という事だからなのでしょうか。
これだけインターネットによる情報があっという間に広まる現実において、映画の展開の古臭さも気になりました。
いくら何でも現代ではばれるだろう、と。
風刺劇なのは当然として、現実味のない映像を多用しているのだから、だったら思い切ってブラックコメディにする手もあったのではないでしょうか。
案外作り手の覚悟が出来ていない、中途半端で退屈な映画になっていました。
- 作者: 岡崎京子
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