days of cinema, music and food

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"The Thing" (1982) on Blu-ray Disc


ジョン・カーペンター監督の1982年の映画『遊星からの物体X』をBlu-rayにて鑑賞しました。
これ、UK盤なのですね。
世界各国共通盤なので日本語字幕収録がされています。
まだ国内盤BDが高めだった頃ですから3年くらい前でしょうか。
今では廉価版の価格差異は無くなりましたが、今更観ているので余り意味が無かった買物、という事になります(^^;
無論、先日の遊星からの物体X ファーストコンタクト』(スタトレかいっ)から続けて観ると楽しいのではと思ったのが鑑賞動機です。
これが当たりでした。
特に前半はアレがああなるのね、といった所が多くてニヤリとさせられました。
何度もVHSで観ていて、旧三軒茶屋東映でも観ていて、DVDでも観ていますが、かれこれ10年振りくらいの再見でしょう。
はっきり言って今回が1番楽しめましたし、評価も改めました。




私自身の今までの評価は、映画全体がロブ・ボーティンの特殊効果に食われてしまい、面白いのは中盤の血液検査まで。
以後は余り盛り上がらず、後半力足らずなのがカーペンターらしいと、というものでした。
観直してみると、クライマクスのブレア・モンスターのくだりはやはり記憶通りに凡庸です。
しかし男だらけのむさ苦しい空間での「誰がニセモノなのか?」という緊張感は終盤まで続いて中々。
ビル・ランカスターの脚本はそこに力が入っているように思えます。
こちらにあってあちらの前日談『ファーストコンタクト』に欠けていたのは、ドラマの緊張感だと確認しました。
またモンスター登場時間が意外に短かったですが、これで適切だったのでしょう。
もっともこれはすっかり見慣れたので、よりドラマに目が行った上での印象かも知れません。
実は今回の鑑賞で1番印象的だったのは、カート・ラッセル扮するマクレディが随分とタフネス男として描かれていた事です。

今更ながらですが面白かったです。
いや確かにこんな風ではありましたが、そのマクレディの描写がカーペンター&ラッセルの前作『ニューヨーク1997』の主人公、スネーク・プリスキンを連想させて楽しい。
しかし当然ながらスネークとは明らかに違います。
これも描写と演技が的確、如何にも西部劇風なのもカーペンターらしい。
それとこの頃から既にカート・ラッセル兄貴は緊張感演技が上手かったのですね。
思い出してみましょう。
エグゼクティブ・デシジョン』や『ブレーキ・ダウン』の緊迫感は、あの演技無くしては考えられません。
だからこの映画の緊張感や男のドラマは、主演のラッセルに負うところが大きいのではないでしょうか。
無論、ウィルフォード・ブリムリー以下の渋いキャストも素晴らしいです。
このように、今観るとホラー映画というよりも男たちのドラマという側面の方が印象に残りました。
そこに挿入される適度なユーモアも前日談に欠けていたものの1つです。
こちらのスパイダー登場のくだりなぞ、劇場では爆笑ものだったのを思い出しました。





ここです、場内爆笑だったのは。
コソコソ逃げて行くのが何だか笑えたのでした。




アラスカとカナダでの撮影、LAではセットを寒くしての撮影だったそうですが、さぞかし過酷だった事でしょう。
前日談と比べても本当に寒そうでした。


今回、BDでの大画面鑑賞で驚いたのは、かなり画質が綺麗だった事です。
カート・ラッセルのアップでは、肌年齢が若いのがはっきり分かります。
ディーン・カンディによる優れた撮影と照明にお金が掛かっているというのもありましょうが、30年前の映画でもしっかり保存された映画だと、まだまだ十分綺麗な場合があるのだと感動しました。
特にこういったジャンル映画で、公開当時は批評面でも興行面でも燦々たる失敗作だった映画なのに、綺麗な画質で観られるのは嬉しい。
そう言えば、2週間先に公開された『E.T.』のあおりを食らって失敗したというのは有名な話ですが、どちらもユニバーサル映画。
社内で競合作品を同時期に公開するという、理解不可能な公開の仕方ですよね。
これは私の長年に渡る謎でもあります。
でも今、残っている作品はどちらかと言うと『E.T.』ではなく『物体X』だと思います。


BD最大の(?)楽しみはカーペンター&ラッセルの音声解説が、ユニヴァーサル作品にしては珍しく日本語字幕収録されている事でもあります。
DVDでは日本語字幕無し、でも添付の冊子に対訳が載っているという仕様でした。
何もないより随分ましですが、冊子を付けるところに本作の人気の高さを感じたものです。
こちらのBDは日本語字幕があるので、これが実際に聴くと楽しい。
友人べっくが持っていた国内版LDはどうだったのでしょうか。
時間の都合もあって序盤でやめてしまいましたが、これは是非後日続きを聴きたいもの。
傑作メイキング・ドキュメンタリも久々に見たいです。

脚本家ビル・ランカスターは70年代のリトルリーグ・コメディ映画『がんばれ!ベアーズ』シリーズの脚本家です。
名優バート・ランカスターの息子とは存じていましたが、2007年に若くして亡くなっていたのですね。
知りませんでした。


本作を観終えると殆どの人が印象的に思うであろう音楽。
私も鑑賞後から延々脳内でベンベンしています。
そんな方にはほら、こちら。

  • John Carpenter's THE THING - Music by John Carpenter & Alan Howarth


たっぷりベンベンしています。
3曲メドレーになっているので2曲目からですよ、ベンベンは。
映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネの曲、と一般に言われていますが、モリコーネの曲に物足りなさを感じたジョン・カーペンターと、相棒のアラン・ハワースによって追加された曲が多い、と知ったのはつい最近の事でした。
べんべん…


ロブ・ボーティン(本当は「ボティーン」と発音するそうですが)のクリーチャーは精巧さよりも、彼らしい大胆さが目立つものとなっていて、リアルさ云々よりもそのパワーによって映画史に残っています。
先日のナカコナイトでは、中子真治氏が風船を使った変身が『ハウリング』同様に彼らしいよね、と言っていましたが、ナルホド。
そのとき聞いた話で面白かったのが、ボーティン起用の理由でした。
仲の良かった中子氏がボーティン宅に遊びに行っている時に、本作の企画を知ったボーティンから、カーペンターに紹介してくれよ、と頼まれたとか。
しかしボーティンとカーペンターは『ザ・フォッグ』で組んでいます。
同作でボーティンは、特殊メイク担当のみならず亡霊の首領役で出演もしているのです(あの赤く目が光る大男です)。
「だから自分で売り込めば良いじゃない」という中子氏に対して、ボーティンは「俺の事なんて憶えていないよ」と言います。
カーペンターは特撮とかメイクとかには本質的にまるで興味が無い人なので、そのスタッフの事など分かっていない監督なのだそうです。
そこで中子氏がカーペンターに売り込んでボーティンが採用され、映画史に残る醜悪なモンスターが誕生したという事です。
当時ボーティンは22歳。
物凄い大量の仕事を抱える羽目になり、しかも誰も作った事が無いものを創造する事になったので、試行錯誤と実験の毎日だったとか。
これについては音声解説でカーペンターが「失望する日もあった」と言っていたので、浮沈を繰り返す日々だったのでしょう。
手が足りなくなったボーティンがスタン・ウィンストンに助けを求めて、ウィンストンがエスキモー犬の効果を担当する事になったのは有名な話です。
そのエスキモー犬の怪物は私のお気に入りとなっています。
中子氏によると、近年仕事の無いボーティンは精神的な病を患っているとの事。
その天才ぶりは『レジェンド/光と闇の伝説』の傑作デザインや、『ロボコップ』『トータル・リコール』『氷の微笑』といったポール・ヴァーホーヴェン作品で知っているだけに、何とも残念な話です。


そのボーティンが大声と大袈裟な身振りでインタヴューに元気良く答えてくれる傑作ドキュメンタリ、『Terror takes a Shape』も時間を取って見直すつもりです。
まだまだ楽しみが残るBDなのです。


遊星からの物体X [Blu-ray]

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