days of cinema, music and food

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おおかみこどもの雨と雪


Twitterで話題になっていた『おおかみこどもの雨と雪』をレイトショウ鑑賞しました。
お盆だからなのか、あるいは話題作で前週比120%の入りというヒット作だからか、お盆休みの月曜20時10分からの回は結構の入りです。
125席の劇場で50人くらいだったでしょうか。
幼稚園か小学校低学年くらいの小さな子供達数人が、保護者と一緒に団体鑑賞なのも夏休みという事で。
会社の3年目君も先週、大分の実家近くで観て来て気に入ったとの事でしたので、それなりに期待して観ました。


東京大学(でしょう、あれは)の学生、花(声:宮崎あおい)は、講義で知り合った「おおかみおとこ」(声:大沢たかお)と恋に落ちます。
やがて2人には、元気活発な姉の雪と、内気で大人しい弟の雨をさずかります。
しかし彼らは「おおかみおとこ」と人間の合いの子。
感情が高ぶると「おおかみ」に変身してしまいます。
都会で人目を避けて育てるのに限界を感じた花は、家族で緑豊かな山あいの田舎の集落に越します。
大自然の中で伸び伸びと育つ2人でしたが、彼らには選択の時が迫っていたのです。


映画が終わると、先に書いた子連れ団体引率のお母さんは、目が真っ赤で「号泣しちゃったよ」。
子育てをした人にとっては感じるものが多い映画なのでしょうね。
事実、私も中盤までは結構心の琴線に触れたりしました。
後半の展開は私自身が経験するのはまだ先だと思っているからか、自分でも意外にも涙腺が刺激されませんでした。
でもそうか、親の知らない内に子供は育つというから、ね…。


私は細田守作品は初めて。
時をかける少女』も『サマーウォーズ』も、確か近所のシネコンでは上映していませんでした。
ですが本作はあちこちのシネコンで上映され、回数も多い。
気軽に観られるようになったのは有り難いものです。
今回、大画面で観て良かったと思いました。
CGを使いまくった精緻な背景は、大画面鑑賞に相応しい画そのもの。
時には実写動画をトレースしたかのような場合も少なくありません。
その手前でアニメならではのデフォルメされた、簡素な線のキャラクター達が活き活きと動き回ります。
その様を観るのは、ちょっとした体験、映画ならではの悦楽でした。
まずこの1点だけでも、この映画をお勧めする理由になります。


映画には登場人物それぞれに込められたテーマがあったようで、各々が明確に描かれ、腑に落ちる、納得の行くものでした。
ときにユーモラスに、ときにさらりと描かれた子供たちそれぞれのドラマも印象的ですが、私自身が親なので、「親である事」というテーマがやはり心に残ります。
でも実生活で親でなくても、これは十分に楽しめる映画だと思います。
子供であっても親であっても、人は成長していくに従って変わっていくというのが、映画の主軸となるテーマだと解釈しました。
そうすると、ほら、子持ちでなくとも、想像しやすいでしょう?


終盤には嵐の中での花が山探しする場面が用意されていて、事実上のクライマクスとなっています。
これがかなりこってりと描かれていたので、少々長く感じてしまいました。
これはピクサージブリ等の、テンポ重視のアニメーション映画に慣れているからかも知れません。
劇中での花は、優しく礼儀正しく、愛情深い頑張り屋で、何事もあっさり受け入れてしまう、一見「理想の母」として描かれています。
しかし本当にそうなのでしょうか。
彼女が夫(事実婚?)のみの介助で、自室にて出産するのは、子供と自分の命を軽く見ているのではないか。
子供が異物を飲み込んだときに病院に連れて行かないで電話だけで解決するのは、単に運が良かっただけなのではないか。
秘密を守る事ばかりにこだわり過ぎているのではないか。
映画は成長した雪の落ち着いたナレーションがかぶせられ、その声は主に肯定調です。
しかしこれは飽くまでも娘の主観であり、 また母から聞いた情報を基にしているもの。
描かれている行為は全てが褒められるものではないのです。
映画は田舎に移ってから伸びやかに人物達と描写していきます。
花も農作業のみならず、色々な面で成長して行きます。
終幕でお危険を顧みず、必死になって息子の姿を探し求める花。
でも残酷なのは、あそこで描かれていたのは子を探す母の想いであって、子供にとってどうなのかは別だ、という事実。
親も成長していくけれども、子供は親の気持ちとはまた別に成長し、自立し、旅立っていくものなのですから。


全体に面白く、感銘も受けた箇所も多いのですが、少々の物足りなさも感じました。
内容は含蓄に富み、アニメ映画としての意匠は凝らされており、映像も音楽も美しいのにも関わらず。
世知辛い都会に対して、田舎の人々は垣根を越えたら皆善人ばかりという単純な描き方が、私にはいささか絵空事に思えてしまったようです。
美し過ぎる舞台が、終幕の主人公の葛藤を、転じて私の感動も薄めてしまいました。
途中までは「これは傑作かも知れない」と思っていたのに、後半は物足りなく感じたのはこんな理由のようです。
しかしながら、跡を引く映画なのも確か。
観終えた後に、親とは何かと幾度も反芻してしまいましたから。


機会がありましたらご覧になるのをお勧めします。


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