days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Grey


ジョー・カーナハン監督の期待作『THE GREY 凍える太陽』を、公開初日土曜のミッドナイトショウ鑑賞しました。
23時5分からの回は15人程の入りです。


アラスカの石油掘削基地で対狼スナイパーとして勤務するオットウェイ(リーアム・ニーソン)は、人生に絶望していました。
そのオットウェイらが休暇用に乗った飛行機が墜落してしまいます。
厳寒の荒野に放り出され、生き残ったのはわずか7人。
しかも狼の群れが男達を付け狙っています。
過酷な自然の中で果たして彼らは生き残れるのでしょうか。


Narc ナーク』の監督ジョー・カーナハンと『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』の監督ジョー・カーナハン、さて今回はドッチのカーナハン?
正解は前者。
つまり娯楽アクション・スリラー映画として撮るのが可能なのに、キリキリとした緊張感と圧迫感主体の、ストイックで重厚なドラマ映画に仕立てたのです。
贅肉を減らしたかのようなサヴァイヴァル・ドラマで、全編を押し進めて行きます。
苛烈を極める自然の描写は、観ているだけで寒そう、痛そう。
暗闇の中での狼達の吐く息や光る眼等、VFXを上手く使った寒さや恐怖の演出も決まっています。
マサノブ・タカヤナギによる粒状が目立つ白と灰色主体の色彩設計のフィルム撮影と、緻密な音響設計も素晴らしい。
どちらも猛烈な吹雪の描写も含めて、圧迫感・緊張感を高めるものとなっています。
注目すべきは全体的に男達に寄った映像設計です。
飛行機墜落場面でさえクリント・イーストウッドの『ヒア アフター』の津波場面ように、登場人物の主観で描かれています。
大自然に放り出されてからも同様。
ですから崖っぷちを映したVFX使用のロングショットは違和感があったのでした。
KNBイフェクツ・グループによる特殊メイクや狼効果も上出来で、これはいつもながらさすがでした。
音楽はマルク・ストライテンフェルトで、本作の製作者リドリー・スコット繋がりの起用でしょう。


役者も知っているのがニーソン、ダーモット・マローニージョー・アンダーソンと3人だけ。
不平不満たらたらのディアス役フランク・グリロは初めて見る役者でしたが、彼は非常に良かったです。
しかもニーソン以外は全員死亡フラグが立っているように見えるという、常にハラハラしました。
リーアム・ニーソン、今回も良いですね。
映画の貫禄を1人でしょって立っていて。
終幕の神への挑戦と受け取れる言葉も、魂から振り絞ったかのよう。
彼が繰り返し言う

もう一度闘って
最強の敵を倒せたら
その日に死んで 悔いはない
その日に死んで 悔いはない

の意味もラストにずしんと来ます。
オットウェイは誰と戦っていたのか。


各人の死に様も救いが無くて気が滅入りますが、これも娯楽度低下の理由の1つです。
近年の映画だと『サンクタム』に感触が近いでしょうか。
しかも全体にカタルシスが殆ど無いという、幅広い観客を否定したスタイルなのが面白い。
単純なアンハッピーエンディングを放棄し、「ひょっとして…」が当たったまさかのラストも、普通の映画では考えられないものです。
となると本作は、一見すると死に直面した人物、死と対峙した人物を描くのが主眼という事になります。
そして彼らが戦っていた相手は何なのか。


狼に追われていた人間達は、過酷な大自然の中で苦闘します。
体力を奪う寒さ、視界を遮る猛烈な吹雪、歩くのにも力がいる深い雪。
食料も無く、武器も無い彼らは、自然の中で調達するしかありません。
常に男達の前には難所が立ちはだかり、彼らはそれらをクリアしていかねばならないという緊迫感。
その中で印象的なのは、誰も皆とは限らずとも、家族がいる普通の人々を描いているという点です。
死ぬ人を記号ではなく、落命の場面も単なるイヴェントではなく、家族も人生もある人であっても、大自然の中では簡単に生きられず、死ぬ事もあるのだ、という主張。
彼らは狼だけではなく、大自然と戦っていたのです。
これは作家の個性が前面に出た映画です。


実は面白そうなのに見逃している映画に『ザ・ワイルド』というのがあります。
リー・タマホリ監督、デヴィッド・マメット脚本、ジェリー・ゴールドスミス音楽、アンソニー・ホプキンスアレック・ボールドウィン主演でした。
山奥に墜落した2人の男が、反目しながらも大自然からの脱出を狙うものの、獰猛な巨大熊に付け狙われる、というもののようです。
公開当時は迫力満点で高評価、しかし上映館数が少なくて見逃してしまい、サントラCDだけ持っているのでした。
今回のミッドナイトショウまでの道中は、その音楽を聴きながらの運転。
恐らくはあちらとこちたとではかなり違う映画なのでしょうけれども。


予想とは違う映画でしたが、中々面白く、興味深かったです。
しかもかなり緊張を強いられるので、結構疲れる映画でもあります。
万人にお勧めではないですが、強烈な印象を残す映画でした。
異色作としてお勧めです。