days of cinema, music and food

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"Made in L.A. (a.k.a.: L.A. Takedown)" on DVD-VIDEO


メイド・イン・L.A.』をDVDで鑑賞しました。
映画ではなく、1989年に北米で放映されたテレビムービーです。
監督&脚本はマイケル・マン
TVシリーズ『刑事スタスキー&ハッチ』や『ポリス・ストーリー』等の監督、脚本家としてキャリアを始め、『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』で映画デヴュー。
しかし『ザ・キープ』、『刑事グラハム/凍りついた欲望』等の興業的・批評的な失敗を得て、再びテレビの世界に戻ります。
そこで大きく当てたのがTVシリーズマイアミ・バイス』でした。
そのヒットの余勢を買って作られたと思しきオリジナルアクション・ドラマが、この『メイド・イン・L.A.』なのです。


現金輸送車が襲撃されました。
冷酷かつ冷静な犯行から、L.A.市警の巡査部長ヴィンセント・ハナ(スコット・プランク)はプロの犯行と睨み、チームを率いて捜査線を張ります。
一方、武装強盗団の首領パトリック・マクラレン(アレックス・マッカーサー)は、次の大ヤマでチームを解散して高飛びし、引退する計画でした。
ハナとマクラレンは互いの存在に気付き、偶然に出くわしたコーヒーショップでにこやかに会話をするものの、追う者、追われる者同士の対決のときが迫ります。













この切れのあるアクションとテンポで見せるテレビムービーの内容を、どこかで聞いた話だ、と思った人も居るのではないでしょうか。
この話知っているよ、という人も居るでしょう。
日本ではテレビ放送された訳でもなく、かつてVHSソフトとしてひっそりと出ただけのTVムービーなのに。
そんなの余程のマニアでなければ観ている訳もないでしょう?
現に私も、10年程前に当時住んでいた梶が谷にあったビデオレンタル屋(今はありません)でVHSを見つけ、借りようと思ってそのまま、後年、「あの時借りて観れば良かった」と後悔したものです。
実は本作、マン自身が映画としてリメイクしています。
映画の題名は『ヒート』。
ハナ役はアル・パチーノ、パトリック転じてニール・マコーリー役にロバート・デ・ニーロが配され、ヴァル・キルマートム・サイズモアナタリー・ポートマンら豪華キャストが起用された、3時間近くの超大作アクション・ドラマでした。
内容を知っていると思った方も、これで腑に落ちたでしょう。


実は今回、予約していた『ヒート』Blu-ray Disc発送メールが熱帯雨林さんから来たので、本作を購入済みだったにも関わらず未開封だったのを思い出して、慌てて観てみたのです。
このオリジナル版を、噂通りに話は殆ど同じでした。
台詞やカメラワークまでそのままの箇所も多い。
こちらの方は2時間枠内の放送用ドラマとあって90分強しかありません。
なのにリメイク版は3時間近くもあるのです。
こちらが骨子だとすれば、あちらは厚めの肉をたっぷり付けたものでした。
アクション増量、ドラマも増量。
主要人物だけではなく、その家族や周辺人物にも個性やドラマを与えており、お蔭で犯罪に関係する市井の人々という側面まで持つ事になりました。
これを良しとするかどうかで、『ヒート』への評価は変わります。


私自身は『ヒート』は間違いなくマイケル・マンの代表作であり、そして傑作だとは思います。
しかしドラマ部分に関してはいささかやり過ぎた、描く人物を多くし過ぎた、というのが率直なところです。
ただオリジナル版は流れの中で説明不足なところもあり、ドラマ部分も心の叫びをあげる人物がいるにしてはあっさりし過ぎた印象も強く、だからマンはリメイクしたくなったのでしょう。
単純明快な「刑事対犯罪者」という活劇の風味が、若干薄れるとしても。
もっとも、映画版ではハナの妻(本作ではエリ・プージェ)や家庭の描写が増えていますが、パトリックの恋人イーディ(本作ではローラ・ハリントン)の描写は余り変わりませんが。
イーディは犯罪者にとって都合の良い女だという、意地悪な解釈も成り立ちます。
ともあれ、しかしです。
終盤の展開だけは『ヒート』と大幅に違うものの、こちらのシンプルで無駄の無さが際立ちます。
何故、冷徹で身の危険を感じたら即姿を消す男が、わざわざ復讐の為に死地に赴いたのか。
プロの犯罪者の行動原理の変化が『メイド・イン・L.A.』の方が分かりやすく、説得力がありました。
これを『ヒート』で捨てたのは惜しいとも思います。
しかし翻って『ヒート』では、この改変によって身勝手な男達が自滅する様が強調され、だからこそ現代の神話にも成り得たのだ、とも言えます。


かようにマイケル・マンは過剰な映画が好きなのです。
ラスト・オブ・モヒカン』然り。
『インサイダー』然り。
情念に駆られた男どもが、自らの頭脳と度胸、肉体を駆使して内なる雄叫びを体現する。
肉汁たっぷりのステーキだけに飽き足らず、マッシュドポテトや野菜のソテーも添え、こってりとしたグレーヴィーソースをかける。
それでいながら味がぼやける事は無く、力強い。
それがマンの映画の個性なのです。
それを再確認出来た意味でも面白い鑑賞でした。


役者ではスコット・ブランク、アレックス・マッカーサー以下、主要人物達が30歳前後なので、かなり若々しい。
裏切り者ウェイングロウ役が本作ではザンダー・バークレーが演じていて、本作と『ヒート』両方に出演している唯一の顔となっていました。
刑事の1人役にマイケル・ルーカー、保険関係者役にボールドウィン兄弟の次男ダニエル・ボールドウィン、チンピラ役にケイリー=ヒロユキ・タガワと出ていて、皆若い!
盛り盛りヘアスタイルや、肩パッド誇張ジャケットに白靴下等のファッション面や、ビリー・アイドルによる歌も含めて、ギンギン軽薄な音楽の陳腐さもあって、如何にも1980年代のカッコ良さが今観ると恥ずかしくなります。


しかしこれが500円DVDで観られるとは分からないものです。
DVDとしては簡素な仕様で、トップメニューで字幕あり/なしを選択出来るだけです。

チャプターすらありません。
パッケージの中は広告すらなく、ディスクがはまっているだけ。

映像は古いしのは致し方ないとしても、リップシンクがずれているのは非常に残念です。
でも500円ですからね。
もう観られないと思っていただけに観られて良かったというのが、嘘偽ざる気持ちです。
興味のある方は是非!


メイド・イン・L.A. EMD-10024 [DVD]

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