days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

『アウトレイジ』 on DVD-VIDEO


北野武の新作にして話題作『アウトレイジ ビヨンド』を観たいので、その前に予習として久々にDVDレンタルを利用しました。
私が借りて観るのは数年振りでしょうか??
Blu-ray Discを買うようになってから、SDのレンタルは余りする気が無くなっていたのです。
しかし『アウトレイジ』はBDこそ市販されているものの、近所のレンタル屋にはDVDしかありません。
そこでTSUTAYAにて借りた次第。
「人気作品ですので二泊三日しかご利用できません」と言われて一瞬「え?」と思いましたが、それでも100円ですか。
こりゃレンタル苦境も分かりますね…









有名な映画ですしヒットもしたので、内容はご存知の方も多いでしょう。
巨大暴力団組織の内部にて、ヤクザ同士の諍いが弱小組の殲滅や、組織のさらなる巨大化に至るまでを、ドライ且つ暴力的に描いたヤクザ映画です。
義理人情よりも如何に上手く自分が生き残れるか、組織を発展・維持するかにポイントを置く人間が多数登場するのが特徴ですね。
これが非常に現代的な視点で面白い。
私はヤクザ映画は余り観ていませんが、それでも随分と変わったなぁと思いました。
これは監督、脚本、編集をした北野武の視点がドライだから、当然の帰結でしょう。


この映画が日本映画史に残るのは、ここまで怒号と罵声が飛び交う映画があったでしょうか、という点にもよります。
セリフが余りに口汚いとコメディとなってしまう、というのは、特にアメリカ映画などで出くわす場合があります。
例えばブライアン・デ・パルマの傑作『殺しのドレス』では、ヒロインのナンシー・アレンをねちねちいたぶる、デニス・フランツ演じる刑事が登場するだけで、観客席はゲラゲラゲラだったと、小林信彦は書いています。
刑事は名前をマリノといい、名前も見てくれも如何にもイタリア系、しかも口汚い。
それが笑いを呼んでいたそうです。
またポール・ヴァーホーヴェンの大ヒット作『氷の微笑』。
マイケル・ダグラス演ずる主人公刑事のジョージ・ズンザ演じる太った相棒も、一言一言が口汚いので、やはりゲラゲラゲラだったとか。
これは日本人には頭で分かっても、腹の底から可笑しいかどうかは別です。
しかし『アウトレイジ』は、「極度の口汚さが笑いを生む」点において、日本映画でも画期的なギャグ映画となっているのです。
如何にも人相の悪いおっさんたちが、血相変えて青筋立てて、「ぶっ殺すぞ、てめぇ!」「わかってんのか、このタコ!」「てめぇふざけんじゃねぇぞ、このバカヤロ」等と言う場面が多いのだから、こちらは笑うしかありません。


そんな訳で序盤の余りに口の悪い役者達の台詞に笑い、「こりゃ観た事無い映画だ」とかなり興奮し、期待したのでしたが、ブラックコメディ調も途中まで。
後半はエレジー漂う映画になってしまい、コメディ映画としてはいささか肩すかしでした。
映画の後半で色濃くなるのは、無常観。
画面転換のフェイドイン/フェイドアウトの多用は映画のテンポを遅らせてしまう技術ですが、本作の場合は合っていました。
ですから、この映画における下っ端ヤクザ達の消耗品振りは、感情移入出来ないものの、一方で哀れでもあります。
そうですか、それがテーマでもありましたか。
ならばやはり、これは新しいヤクザ映画とも言えるのでしょうか。


不満に思ったのは、映画全体における暴力描写の使い方です。
観ていて痛そうな暴力描写が多い映画ですが、特に後半は血の粛清が淀みなく続く展開となります。
力の入った様々な惨たらしい殺しの場面が強烈な印象を残すのに対して、意外にも物語が印象に残りません。
北野武は手を抜いた訳ではないでしょうが、殺しの工夫に比べて物語の工夫が足りないのです。
いわばアンバランスなのですね。


正直に申しましょう。
北野武映画は処女作『その男凶暴につき』以来ですから、相当久々でした。
あちらのウィリアム・フリードキンのパクリ的暴力描写と終盤の展開(だって『L.A.大捜査線/狼たちの街』そのまんまですよ!)、それに鈍重なペースで、以来敬遠していたのです。
今回も若干の杞憂はありましたし、満足からは程遠かったのですが、それでも楽しめました。
意外な役者達の悪党面は、映画の見世物として十分に機能しています。


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当初『アウトレイジ2』と仮題が付けられていた『アウトレイジ ビヨンド』は、大震災の影響で1年間程製作が延期され、題も変わりましたが、無事に製作&完成されています。
アウトレイジ』が観られたので、さ、『アウトレイジ ビヨンド』を楽しみに観に行きましょう。