days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Argo


話題作『アルゴ』をミッドナイトショウ鑑賞しました。
公開初日の平日金曜夜、23時40分からの回は20人程の入りでした。
アメリカ本国では来年のアカデミー賞候補の呼び声も高い映画だけに、この入りは寂しいです。


1979年11月、テヘランアメリカ大使館に大量の暴徒が侵入し、52人が人質となります。
しかし6人の大使館員が裏口からこっそり逃れ、カナダ大使私邸に逃げ込みました。
見つかるのは時間の問題、見つかれば公開処刑は確実です。
国務省の依頼により、CIAは人質救出のプロ、メンデス(ベン・アフレック)を派遣。
メンデスはハリウッドを巻き込んだ大胆な作戦を立案、早急に実行に移されます。
メンデスは『猿の惑星』の特殊メイクでアカデミー賞を受賞した、友人でもあるジョン・チェンバースジョン・グッドマン)に協力を呼びかけ、チェンバースは旧知のプロデューサー、レスター・シーゲル(アラン・アーキン)を計画に引き込みます。
準備が進む中、6人の大使館員達と共に脱出すべくメンデスは現地に飛びますが、そこには数々の障害が立ち塞がっていました。


基本はスリラーの構造を持ち、そこにドラマを塗してある作り。
その匙加減が絶妙です。
まるで70年代の社会派娯楽映画のよう。
例えば『狼たちの午後』や『チャイナ・シンドローム』といった作品が脳裏に浮かびました。
つまり、長々とした説明調のドラマが無く、非常に簡潔なのにドラマがしっかりあるのです。
主演だけではなく監督も兼任しているベン・アフレックの手さばきは、自信に満ち、しっかりとした足取り。
慌てず急がず、しかし鈍重を避けています。
そして後半は脂汗をかきそうになる緊張感。
逃れる術は脳内で「これは映画だから」と繰り返すのみですが、実話を基にしているのですから逃れられません。
だからこそ開放的なラストで感動したのです。
これは素晴らしい映画でした。


ハリウッドも登場するので皮肉も含めた映画愛が出て来るものの、物語を邪魔しない程度なのも上手い。
でも最後の最後に監督でもあるアフレックの映画愛が炸裂していて、頬がほころんでしまいます。
全体のバランスも見事なのに、ちゃんと自分の嗜好も出していて。


食えないアラン・アーキンジョン・グッドマンの映画業界を生き抜いてきたヴェテラン・コンビも楽しいですが、意外や意外、常に困った顔をしているアフレックも良いじゃないですか。
役者としての彼にはまるで期待していなかったので、これは嬉しい収穫でした。
素顔の困った顔、6名相手の冷静沈着な顔。
主人公は両方使い分けているので、人間味がありました。


使い分けと言えばロドリゴ・プリエトによる撮影も見逃せません。
北米場面はHD撮影、外国場面は粗いフィルムと、ルックの差異が良いです。
ドラマ調の北米、臨場感の外国、といった所でしょうか。
ドキュメンタリタッチな映像が後半の緊張感に繋がり、これも素晴らしい技術力でした。
またインビジブルVFX(特撮と分からない特撮)も多用されていて、見事な効果を上げていましたよ。


私自身は、役者では主人公の上司役ブライアン・クランストンが1番印象に残りました。
この所急に見掛けるようになった人ですが(先日観たトータル・リコール』の悪ボスとか)、近年では本作が1番美味しい役です。
終盤の熱血活躍も見逃せません。
スカッとする場面もありますしね。


後半のじりじりする緊張感と言ったら無いのですが、実はスケールは小さい話なのですよね。
でもぐいぐいと引っ張って引っ張って引っ張って、スクリーンに観客の眼を釘付けにする手腕は素晴らしい。
何かもう、参りましたという感じです。
前作『ザ・タウン』のアクション演出も素晴らしかったですが、本作のスリラー演出も素晴らしい。
ベン・アフレックは名監督になりますね、きっと。


今日の朝日新聞夕刊のアフレック・インタビュー記事で、イラン側の描写を一面的という旨の記者の文がありました。
これには異議あり
基本的にはアメリカ側視点ではあるものの、イラン人も皆、暴徒や怒りに満ちただけの人ばかりではない、という描写がちゃんと用意されています。
またアメリカの政策には厳しい眼差しの映画でもあります。
記者は見逃したの?
まさか、ねぇ。


派手な場面は無くとも、娯楽としても上出来の映画。
こういう映画にも当たってもらいたいものです。