days of cinema, music and food

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Dangerous Method


邦題『危険なメソッド』を久々のレイトショウ鑑賞しました。
このところミッドナイトショウ鑑賞ばかりでしたので。
公開初日の土曜21時20分からの回、デヴィッド・クローネンバーグ作品夜の回で、まさか30人以上も入っているとは。
世間的に注目度が高い映画なのでしょうか?
まさか、ねぇ。
レイトショウって久々だったから、これくらい入っているものなのでしたっけ等と、頭の周りで「?」を回しながらの鑑賞でした。


20世紀初頭、チューリッヒにある病院に激しいヒステリー症状を見せる18歳のユダヤ人女性ザビーナ(キーラ・ナイトレイ)が入院させられます。
彼女を診る事になったのは、若き精神科医カール・ユングミヒャエル・ファスベンダー)。
精神分析の権威ジグムント・フロイトヴィゴ・モーテンセン)の著書に大いに感銘を受けていたユングは、フロイトの提唱する談話療法をザビーナ相手に試みる。
やがてサビーナとユングは関係を持つようになるが。


高校受験のとき、通学電車で読んでいたのがフロイトの名書『精神分析入門』です。

精神分析入門 (上巻) (新潮文庫)

精神分析入門 (上巻) (新潮文庫)

精神分析入門 下 (新潮文庫 フ 7-4)

精神分析入門 下 (新潮文庫 フ 7-4)

非常に難解で、1文読むのに何度も読み返す事多々でした。
今読めば違うかも知れませんが。
危険なメソッド』でも出て来ますが、フロイトは何でも性的抑圧に結び付けるので、同書を読みながら「ホントかいな」と思ったものでした。
でも読んでいて興味深い内容だったから、上下巻読み終えたのだと思います。
危険なメソッド』はそのフロイトが出て来るというので、興味津々で観られました。
無論、大好きなクローネンバーグが精神分析の世界をどう料理するのか、というのが最大の興味でしたが。


冒頭でクローネンバーグ作品常連のハワード・ショアの曲が鳴ると、ほっとします。
クレジットを見るとスタッフも殆ど常連ばかり。
但しプロダクション・デザイナーのキャロル・スピアーは、事前調査だけして後任に引き継ぎした模様です。
クローネンバーグの新作『コズモポリス』も別人ですし、スピアーが引退したか?と思ったら、彼女自身はリメイク版『キャリー』を担当しています。
常連から外れたみたいです。
どうしたんでしょううか。


それはさておき、冒頭から顔や身体が歪んでいるキーラの凄まじいヒステリー演技で掴みはOK。
静かなる変態ファスベンダーは、予想通りにクローネンバーグと相性宜しい感じです。
ほら、彼は骸骨顔ではないですか。
クローネンバーグ作品の主役って、ヴィゴ・モーテンセンクリストファー・ウォーケンジェームズ・スペイダージェームズ・ウッズジェフ・ゴールドブラムジェレミー・アイアンズと、皆骸骨顔ばかりなのですよ。
で相手役は皆美女、という(^^
本作で3作続けてクローネンバーグ作品に出演し、すっかり常連になったヴィゴ、2作続けてのヴァンサン・カッセルも良かったです。
前作『イースタン・プロミス』での危うさが、本作でも魅力的に発揮されていました。
カッセルは永遠の「危うい青年」なのかも知れません。


ヴィゴは劇中で父性そのものを演じていて、観ていて安堵出来る役です。
当初はクリストフ・ヴァルツが配役されていたという役ですが、スケジュールの都合で降板したヴァルツの代打のヴィゴも良いんですね。
感情移入が難しいザビーナとユングに対して、観客の心を静めてくれる真っ当な役なのです。


本作はザビーナを軸にした、ユングフロイトの物語、父と息子の物語でもあります。
しかもクロ作品としては珍しい全編会話劇。
映像も往年のブライアン・デ・パルマ作品のように、画面の手前奥それぞれに2人の人物を配置する構図が目立ちます。
精神医学用語を散りばめつつも赤裸々な感情、押し殺した感情が交錯。
徐々に変化するユング、ザビーナ、フロイトの関係もスリリングでした。
クリストファー・ハンプトンの脚本も優れています。
正直、『裸のランチ』等の退屈な作品を連発していた一時期みたいな映画になっていやしないか、と危惧していたのですが、結構面白かった。
またクローネンバーグ作品のテーマである「変容」は、よくよく考えれば普遍的なもの。
案外間口が広い作風なのも、そのテーマ故かも知れませんね。


近年になって存在がクローズアップされつつあり、再評価されつつあるという、ザビーナの物語としても興味が湧きます。
簡単に取っ付き易い映画でもありませんが、特別に敷居を高くして観る映画でもありません。
ヒストリー・オブ・バイオレンス』や『イースタン・プロミス』といった傑作スリラーに比べても、いささかストイックながら、これは見応えのあるドラマなのでした。
もっとも私は先の2本の方が好きですけれども。