days of cinema, music and food

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"The Getaway" on Blu-ray Disc


サム・ペキンパー監督、スティーヴ・マックィーンアリ・マッグロー主演のアクション映画の名作、『ゲッタウェイ』をBlu-ray Discにて鑑賞しました。


刑務所から出た前科者ドク・マッコイ(マックィーン)は、実力者ベニヨン(ベン・ジョンソン)の依頼により、妻キャロル(アリ・マッグロー)らと銀行強盗を計画、実行します。
しかし計画には裏があり、ドクとキャロルは警察や組織に追われながらメキシコへの国境を目指す事になります。


















大好きな映画なのに、よくよく考えるとTV放送版ばかり観ていて、字幕&ノーカット版を観るのは初めてな事に気付きました。
出所後から強盗計画までが長いのと、追手のアル・レティエリ&獣医夫婦場面など、観た記憶の無い場面がごろごろあります。
獣医のハロルド登場場面って、ひょっとして丸ごとカットされていました?
故・石上三登志さんの本では知っていたけれども。
今観ると、主役のドクの子供っぽさ、ダメさ振りにペキンパーらしさを感じてしまいます。
ペキンパーの映画って、基本的にダメ中年男が主役の映画ばかりですしね。
しかもいい歳してそれどーなのよと思う言動が多く、しかも”キング・オブ・クール”の異名を取るマックィーンが演じているのです。
当時は観客にどういう受け入れられ方だったのか、興味がありますね。
しかも当時のマックィーンは今の私と同い年ですよ。
うわー。
あんな渋味は今の私にはありません(声はもっと低いけど。えへん)。
彼の顔を「梅干しの種のような」と書いたのは故・増淵健だったでしょうか?
マックィーンだけでなく、アル・レッティエリベン・ジョンソン、スリム・ピケンズら、顔の皺に荒野の砂が入り込んでいるような年輪を感じさせる俳優ばかりで、今のつるり顔俳優にない味のある顔がごろごろ。
連中のツラを眺めているだけで楽しい映画でもあります。


今更ながら感心するのは、銃器の反動を演技で見せるマックィーンです。
クリント・イーストウッドが『ダーティハリー』でやはり反動を見せた後ですね、これは。
本作以前のマックィーンが反動演技していたか記憶にありませんが、お蔭で本作のショットガンの破壊力表現の重量感に、十分に寄与していました。
しかし犯罪のプロの筈なのに、焦って民家の軒先に車を突っ込ませたり、結構派手に逃げ回ったりで、現実味としてどうなのかとか、プロとしてどうなのかとか、色々と問題はあります。
そう、これはある種のお伽噺なのです。
だから最後もまんまと逃げおおせられるのですよ、ペキンパーの理想郷だったメキシコへ。
これはそんな所を楽しむ映画なのでしょう。
今の映画だったらもっとアクションアクションアクションにするのでしょうが、懐古ではなく、この映画にはこれくらいのアクション成分で良いのです。
だってお伽噺なのですから。
ラストの電柱群が墓場に見えるという解釈もあるけれども。
ところで主役2人が蜂の巣になるという、幻のスペイン版って本当にあるのでしょうか。
誰も観た事が無いようですし、写真すらないのだから、都市伝説のような気がします。
どなたか教えて下さい。
でも伝説にすらなったアクション映画という事だから、夢のある話ではありますね。


今回観てみて、撮影監督ルシアン・バラードによる印象的な映像や場面が本当に多いと思いました。
道端での夫婦喧嘩。
ゴミの山を2人で肩組んで歩くくだり。
無論、ラストも。
ワイドスクリーンを使い切った構図で素晴らしいものがありました。


BDとしての品質はもう、製作年度を考えたら十分でしょう。
130インチでも全く問題なく、綺麗に観られました。
派手な画作りでないので、むしろ大画面向きかも知れません。
主人公らの汗ばんだ肌が印象的です。
音もこんなものでしょう。
オリジナルのモノーラル音声は十分鑑賞に堪えられます。
しかしアリ・マッグローってこんなに色っぽかったっけ?という発見もありましたね。

特典として作曲家ジェリー・フィールディングの遺族へのインタヴュー映像があって、最初は「?」でした。
ペキンパー作品常連だったから?
だって本編の音楽はクインシー・ジョーンズなのですから。
そうか、フィールディングの曲はジョーンズのに差し替えられたんですよね。
ドキュメンタリとしては29分が少々長く感じられるものですが、貴重な証言ではありました。
しかし今となってはジョーンズのスコア無しには考えられない映画です。
優しさと哀愁を帯びたハーモニカの旋律は、既に私の中で映画と離し難いものになっているのです。
差し替えを主張したマックィーンの意図はよく分かりませんが、恐らくフィールディングのはもっと地味だったのではないでしょうか。
飽くまで想像ですが、娯楽アクション映画としては明確なメロディとポピュラリティのあるジョーンズの音楽が合っている、という判断だったのでそう。
フィールディングも良い作曲家なのですけれどもね。
イーストウッドの『アウトロー』テーマ曲等、大好きでした。
このBD本編にはフィールディングのボツスコアも収録されていますので、時間を見付けてボツスコア版本編も観てみますか。
と、このジェリー・フィールディング復権活動は興味深いものがあります。
尚、遺族の発言で『砂漠の流れ者』の音楽云々というのがありましたが、あちらは同じジェリーでもジェリー・ゴールドスミスが担当しています。
IMDb見ても、フィールディングが関わったとの記述はありませんでした。
遺族の記憶違い、勘違いの発言だったという事なのでしょうか。
何の説明字幕もありませんでしたが。


ペキンパーの代表作であっても図抜けた傑作という訳ではありません。
でもアクション映画好きにはお勧め出来る作品です。


ゲッタウェイ [Blu-ray]

ゲッタウェイ [Blu-ray]


原作はジム・トンプスン
脚色はウォルター・ヒル
この脚色もハードボイルドで成功していますね。

ゲッタウェイ (角川文庫)

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