days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Silver Linings Playbook


世界にひとつのプレイブック』をミッドナイトショウ鑑賞しました。
公開初日の金曜23時40分からの回は30人弱の入り。
都心では完売の回もあったというから、人気なのですね。
今まで知らなかったのですが、原題にある「silver lining」とは希望の光の意味。
プレイブックはアメフトの戦術本の事。
ご存じの通り、アメフトは分業制が明確なスポーツです。
つまりこれは各人のキャラが明確な、つらい人生や境遇であっても、希望についての群像劇、とも解釈出来る題名なのでした。


8か月ぶりに精神病院から出たパット(ブラッドリー・クーパー)は、妻の浮気現場を目の当たりにし、浮気相手を半殺しにした男です。
彼は自己の怒りを抑制出来ないのです。
妻からは接近禁止令を出されているにも関わらず未練たらたらで、お互いに愛し合っているのだから、身体を鍛えたら妻との復縁が叶うと思っています。
その彼がジョギング中に知り合った若いティファニージェニファー・ローレンス)は、夫を事故で亡くしたショックで職場の同僚全員と寝てクビになった女。
ティファニーはダンス競技会に出場希望しており、パットにパートナーを願い出ますが。


撮影現場で執拗にリリー・トムリンをののしり続けてから(ネットに動画も上がっているそうです)、映画界を一時期干されていた鬼才デヴィッド・O・ラッセルの大ヒット・ロマンティック・コメディです。
原作付きですが、成程、パットはラッセルでもあったのですね。
これが一風変わったカップルを描いていて、とても面白い映画でした。
ラッセルの前作『ザ・ファイター』もそうでしたが、濃い各キャラが立っている家庭を描いていて、これもまた面白いのです。
パットの父(ロバート・デ・ニーロ)は家族想いですが、一方でスポーツ賭博のノミ屋で、全財産を賭けにつぎ込むような困った男。
母(ジャッキー・ウィーヴァー)は、家族に振り回されておろおろしつつも、優しく見守る女。
兄は兄で弟負け犬と見下しているようですが、それでも弟想いの面もあります。
とまぁ、これだけでファミリー・コメディが出来そう。
しかし映画のフォーカスは、不器用なカップルに合わされています。


前半のブラッドリー・クーパーへの感情移入断固拒否な役作りが凄く、これでもかとばかりにこちらの神経を逆なでする言動の嵐。
観ていてぶん殴りたくなる衝動にかられるくらいです (^^;
しかしですね、後半に至ってはいつの間にかそのパットに声援まで送りたくなるのです。
パットは我々の弱い部分を極端に抽出したキャラなのですね。
最後はちゃんとラブコメらしく「王子」になるのは、ハンサムなクーパーを起用した配役の勝利でしょう。
で、クーパーも良いのですが、我らがジェニファー・ローレンスの破壊力は抜群でした。
今まで観た映画の中でも1番良かったです。
クーパー同様に振幅の激しい役柄ですが、スクリーン上での存在感たるや。
はっきり言ってクーパーを食っています。
後半の台所の場面、啖呵切る彼女は拍手喝采もの。
ここを観るだけでも劇場に出掛ける価値がありますよ。
すっかり太ってびっくりのクリス・タッカーも、久々ジュリア・スタイルズに、その夫を演じるジョン・オーティス、インド人のセラピストやら、脇役に至るまで皆素晴らしかった。
彼らのアンサンブル演技を観るだけでも楽しいのです。
でもこれはやっぱりジェニファーの映画でした。


前半のイライラ感は、後半になってその反動とばかりに高揚感と感動で盛り上がり、画面は多幸感で満たされます。
あちこち笑えて、最高にハッピーな、でもちょっと変わったロマンティック・コメディ。
野暮を承知で言えば「あばたもえくぼ」。
欠点だらけでも愛すべき人間たち。
傷付いても、へこたれそうになっても、いつか前に進めるよ、というエール。
これは良いですよ。
お勧めです。


妙に生々しい画面で、撮影監督は誰かと思ってエンドタイトル観ていたら、昨夏に観てインパクト満点だったTHE GREY 凍える太陽』のマサノブ・タカヤナギでした。