days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Amour


ミヒャエル・ハネケの新作『愛、アムール』をミッドナイトショウ鑑賞しました。
平日火曜、TOHOシネマズ横浜ららぽーとでの23時55分からの回は、私を入れて6人の入りです。


パリのアパルトマンに住むジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リヴァ)は、仲睦まじい老夫婦です。
しかしある日、アンヌは病による発作を起こし、手術にも失敗し、車椅子が必要な不自由な身体となってしまいます。
「二度と病院に戻さないで欲しい」とアンヌは夫に頼みます。
ジョルジュはアンヌを自宅介護する事に決めますが。


私はミヒャエル・ハネケ作品は初めて。
本作はどうやら過去と作風がかなり違うとは、事前にあちこちで耳にしていました。
『ピアニスト』『ファニーゲーム』『白いリボン』といった映画で言われたようなのとは違い、本作を鑑賞中には冷酷とか残酷とか冷笑といった単語が一切脳裏に浮かばない映画でした。
確かに映画は冷静でした。
悲嘆に暮れる事も無く、感傷に溺れる事も無く、ひたすら夫婦を見つめます。
しかし冷静で沈着であっても、それは冷たさとは別です。
老夫婦、特にジョルジュに近寄っている視点が、この作品に仄かな温もりを与えているのです。
老人が老人を介護するという、非常に現実味があり、かつ重いテーマでしたが、淡々と日常を描写していました。
介護をする大変さ、介護されるつらさが、観客の眼前に投げ出されますが、必要以上に重くはありません。
映像も細かい編集で割らない、長回しによるリアリズム。
例えば介護老人の移動や動作に掛かる時間が、長回しで捉えられているので、かなりリアル。
でもやたら長回しするのではなく、適切にショットを繋いでいる感じを強く受けました。
カメラワークと編集は印象的だったのです。
そこに浮かび上がる夫婦愛。
これはドキュメンタリではなく、ドラマ映画なのですから。


トランティニャンを劇場で観たのは『暗殺の森 完全版』以来でしょうか。
すっかり老人となっての素晴らしい名演でした。
老いも優しさも狼狽も含めて、非常に人間味のある演技。
対するエマニュエル・リヴァも素晴らしい。
前半と後半の落差があって。
徐々に死に歩んでいく様を演じていて、観ていて楽しいものではないのですが、こちらも感銘を受けました。
ダリウス・コンジによるHD撮影のクリアな映像も、硬質且つ現実味のある内容に合っていました。
娘役の大女優イザベル・ユペールのすっぴんに欧州映画を感じます。


好きかどうかと問われたら答えに窮してしまう映画ではあります。
凡庸な答えを許してもらえるならば、自分の将来に置き換えて想像し、果たして自分はどこまで行けるのか、考えさせられる映画でした。
皆さんも機会があったら是非に。