days of cinema, music and food

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Bill Cunningham New York


ニューヨークのファッション業界の生き証人であるフォトグラファー、ビル・カニンガムを扱ったドキュメンタリ映画『ビル・カニンガム&ニューヨーク』を鑑賞しました。
劇場は先週末に来たばかりの、桜木町にあるシネコン横浜ブルク13
平日火曜19時20分からの回は20人弱の入りでした。
ドキュメンタリ映画にしては異例の入りではないでしょうか。



ニューヨークで50年間フォトグラファーをしている80歳過ぎのビル・カニンガム(本当はカニングハムだけど)は、ステージを撮るだけではありません。
晴れの日も雨の日も雪の日も、街角に立って実際に人々が街中で着ているものを撮り、夜はセレブが集うパーティを撮ります。
彼は撮影をするだけではなく、ファッションを生きた形で捉え、記録しています。
ただ彼はファッショナブルな人を見ると記録したくなる。
それが人生の楽しみでもあるのです。


ニューヨークタイムズ紙に名物コラムを2本持っている彼は、プロとしても厳しい仕事をしています。
レイアウトにはアートディレクターがうんざりする程に細かくこだわり、パーティでは取材対象から離れた方が良いと、酒や食事をもらわずに水の一滴も飲みません。
ただひたすら撮影していきます。
普段の生活も質素そのもの。
カーネギーホールの隅にある狭い部屋は、ネガの全てを保管したロッカーが所狭しと並び、簡易ベッドがあるのみ。
衣服も数着のみ、青い作業着をジャケットにし、レインコートはガムテープで補修しています。
バス、トイレは共同で構いません。
食事も興味が無く、コーヒーは安ければ安い方が良いと言います。
背の高い細面の老人ビルの興味は、ひたすらファッションを観、記録する事なのです。


こう書くと気難しい修道僧のような老人を思い浮かべるでしょう。
しかしビル・カニンガムその人は、人当たりの良い、笑いの絶えない飄々とした人物なのです。
貶めて笑いものにするのを嫌い、対象を愛でる。
彼は本当にファッションに取りつかれていますが、その取りつかれている自分すら笑っているようにさえ見えます。


彼は明らかに仕事を楽しみ、人生を楽しんでいます。
それ以外は彼にとっては余計なものなのです。
都会の真っ只中、華やかな世界で生きているにも関わらず、文字通りのシンプル・ライフを生きています。
そんな彼を観たら、誰だって顔がほころび、元気になるのは当然でしょう。
そして同時に彼の仕事への献身振りに、頭が下がるに違いありません。
これは独りの孤高の存在となった、しかし同時に人生そのものを楽しんでいる達人を描いた、楽しい映画なのでした。