days of cinema, music and food

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"The Name of the Rose" on Blu-ray Disc


極私的な理由で傑作ミステリ映画『薔薇の名前』をBlu-ray Disc鑑賞しました。
観直すのは20年近く振りでしょうか、LD時代以来となります。
劇場はシネマスクウェアとうきゅうで、NT、YSらと観に行ったのを覚えています。


14世紀北イタリアの修道院
宗教論争の為にやって来た僧のバスカヴィルのウィリアム(ショーン・コネリー)とその若い弟子アドソ(クリスチャン・スレイター)は、院で謎の怪死事件を知る。
やがて事件は連続殺人へと発展し、ウィリアムはアドソを率いて事件の真相に迫るが。


















頓智が効いてユーモアたっぷりのウィリアムは、もう全くシャーロック・ホームズそのもの…との記憶はありましたが(だって名前からしてバスカヴィルだよ)、「初歩的な推理だよ」なんて台詞まであったのは憶えていませんでした。
炙り出し文字、毒殺、謎の図書館、迷路と、ミステリとしての楽しい道具立てには事欠かず、今観直しても娯楽映画として相当に面白い傑作です。
難解で有名なウンベルト・エーコの原作は未読ですが、かなり映画向きに簡略化されているのではないでしょうか。


ジャン=ジャック・アノーの演出は奇をてらう事無く娯楽映画の王道を行き、本当、この人の映画はフランス人監督らしからぬ、という言葉がぴったりです。
知らぬ人が観たらハリウッド映画と勘違いしそう。
VFXはかなり控えめで、実物大の巨大セットや実際のロケ等を生かして、画面も重厚で迫力満点、おどろおどろしい中世の修道院の雰囲気も良い感じでした。


事件そのものの真相も中々含蓄に富んでいますが、ここは本の持つ力を主人公ウィリアムと真犯人が対照的に捉えているのに興味を引かれます。
それにしても、です。
中世の写本室といった描写に心踊らされますが、最大級の図書館に足を踏み入れ、埋蔵された知識に囲まれたウィリアム=コネリーの何と嬉しそうな顔でしょうか。
その無邪気な喜びに満ちた表情は、ショーン・コネリーのベスト演技だと思うし、彼の最高の演技が観られる映画だとも思います。
私も書店や図書館が大好きで、そこに何時間でも居られる人間ですから、ウィリアムには感情移入してしまいました。


撮影当時15歳だったクリスチャン・スレイターは初々しく、また美しく純粋な少年役として魅力的でした。
その彼が宗教の欺瞞や厳しい現実世界、それに女性との初体験を通じて大人へとなっていく、という通過儀礼ものとも成立しています。
しかしアノーの描くセックスシーンて、『人類創生』、これ、『愛人 ラ・マン』、『スターリングラード』と、どれも生々しいなぁ。
名も知れぬ貧しい女役を演じたヴァレンティーナ・バルガスはこれしか観ていないけど、強烈な印象を残します。


この映画は「顔」の映画でもあります。
コネリーとスレイター以外は、地顔でもイケている地獄の住人のような面構えばかり。
特殊メイクも一部で使われているのが今回のBD鑑賞ではっきりしましたが、それでも特徴的、個性的な顔ばかり。
その中に浮かび上がるスレイターの初々しい顔が眩しいですね。


興味深いのは、ジェームズ・ホーナーの音楽です。
映画が映画ですからフルオーケストラで良さそうなものの、ストリングス主体のシンセで通しています。
大作だから予算の都合でも無かろうに。
でも私はこの旋律が好きです。
ホーナーはパクリが多く、油断できない作曲家なのですが、ベタっとしたシンセの音色が結果的にこの映画にも合っていたと思います。
不思議なものです。


BDとしての画質は時代を考えたら十分及第点、音も貫禄がありました。
特典でアノーが当時を振り返るのが楽しい。

これは音声解説(アノー自身による英語版・フランス語版の両方があります)も聴いてみたいです。


薔薇の名前 The Name of the Rose [Blu-ray]

薔薇の名前 The Name of the Rose [Blu-ray]


さて、久々にLDを引っ張り出してみましたよ。





やはりBDはLDに比べてチャチに思えますね。
本LD封入の紙は内容の解説も良く、特にラストにまつわる説明が面白いのでした。


因みに劇場でも観た記憶のあるラストは、BDではカットされていました。
LDでは劇場同様にこのような字幕が出ます。


もっとも、LDでも明らかにヴィデオ字幕だったので、これはひょっとしたら、劇場版からして日本独自の字幕挿入だった可能性もあります。
ネットで検索しても分からないので、どなたかご存知の方がいらしたら、ご一報下さい。


おまけ。
劇場版及びLD版のボカシ壺。

男女の腰が密着しているのは当時はNGだったので、しかし露骨なボカシは避けたいと、日本独自の壺やら花瓶やらを、観客は眺めるのを強要されていたのです。
アノーの『愛人 ラ・マン』も確かそうでしたね。