days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Byzantium


ビザンチウム』をミッドナイトショウ鑑賞しました。
三連休初日の9月21日、公開2日目の土曜0時25分からの回は、観客は私を含めて15人、しかも全員男性でした (^^;
おや、これはちょっと意外です。
ニール・ジョーダン好きなのは男性ばかりって事??
まぁ偶然でしょうけれどもね。


現代イギリス。
20代のクララ(ジェマ・アータートン)は16歳の妹エレノア(シアーシャ・ローナン)を連れて、とある海辺の町に辿り着く。
姉妹はかつて栄華を誇ったものの、今は経営されていたにホテル・ビザンチウムに暫く落ち着く事になる。
そこでエレノアは不治の病の高校生フランク(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)と知り合う。
だが彼女らの後には次々と謎の怪死事件が発生し、警察が徐々に迫って来るが。


ニール・ジョーダンは、私が大好きなアイルランドの監督、脚本家、作家です。
赤ずきんちゃんをモチーフにした『狼の血族』。
ロンドン暗黒街を舞台にした切ない恋を描いたスリラー『モナリザ』。
IRA戦士を主人公にしたラブ・サスペンス『クライング・ゲーム』。
IRA創始者を描いた『マイケル・コリンズ』。
グレアム・グリーンの名作の映画化『ことの終わり』。
傑作・秀作・佳作、印象に残る映画がとても多いのです。
最も有名なのはトム・クルーズブラッド・ピット主演の吸血鬼映画『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』でしょう。
時に独特な幻想的タッチを、時に厳しいリアリズムを持ち込みつつ、はぐれ者への優しい視点を忘れない、あるいは「赦し」を忘れない作家でもあります。
これらの作品、どれもお勧めの映画ばかりなのです。


ジョディ・フォスター主演の『ブレイブ ワン』(2007)以来の劇場鑑賞となったジョーダン作品は、幻想的な文体は変わらず。
そこに触れる喜びを得られました。
でもHD撮影に時の流れを感じますね。
この映画はフィルムでも良いと思うのですが、現代の冷徹な視点をHD映像に持ち込んだ、と解釈しても良いのかも。
本作は吸血鬼と赤ずきんちゃんという、過去の作品を思い出させるモチーフを扱った、ホラータッチの幻想映画となっています。
私自身が好きなジョーダン作品のタッチでもあるのです。
当然のように気に入りましたよ。
時空を飛ぶ演出をVFXを殆ど使わない撮影で通し、それがまた幻夢的な時間の迷路に観客を誘います。
幻想作家ジョーダンの本領発揮です。
時の流れの中で永遠に老けない彼女らは、吸血行為をしないと生きながらえません。
周囲に壁を作り、定住しない彼女らですが、クララは全てはエレノアを守る為に優先してダンサーや売春で日銭を稼ぎます。
一方のエレノアはそんなクララを軽蔑し、また孤独に耐え切れなくなってきた様子。
この描き分けも明快で、且つ女優2人自身も見どころとなっています。
ジェマ・アータートンの熱演と、シアーシャ・ローナンの好演は、映画の目玉と言って良いでしょう。
特にローナンの透明感のある個性を生かした配役は、これはもう他の女優では考えられないくらいにぴたったりでした。


終幕もスリルで盛り上げますが、安易に後味の悪い結末とはならず、鑑賞後は切なくも爽やかでもあります。
冷静な演出で通しつつも、やはり孤独な者に肩入れしてしまうジョーダンにほっとしてしまいました。


徐々に様々な謎や真相が解き明かされていく構成も興味を引っ張るし、時折挿入されるショッキングな描写もホラー映画、いや怪奇映画に相応しい。
ジョーダン作品の中でも特に傑作ではないでしょうが、彼の新作にスクリーンで触れる喜びと、また期待に沿った仕上がりで、満足のいく鑑賞となりました。