Passion
大好きだった監督ブライアン・デ・パルマの新作『パッション』をミッドナイトショウ鑑賞しました。
公開初日の10月4日、金曜23時45分からの回は15人の入りです。
大手広告代理店のドイツ支社で働き始めたイザベル(ノオミ・ラパス)は、クリスティーン(レイチェル・マクアダムス)の部下。
ある日イザベルは、パナソニックのスマートフォン、ELUGAのCF向けアイディアを閃き、これが代理店上層部からも高い評価を受ける。
だが手柄はクリスティーンに奪われてしまった。
ここから2人の関係はぎくしゃくし始め、クリスティーンの執拗な嫌がらせによって、イザベルは精神的に不安定になってしまうが…。
2010年のフランス映画『ラブ・クライム 偽りの愛に溺れて』のリメイクですが、アラン・コルノーの遺作であるあちらは未見です。
本作のブライアン・デ・パルマは私の大好きだった監督の1人で、かつては『キャリー』『フューリー』『殺しのドレス』『ミッドナイトクロス』『アンタッチャブル』『カリートの道』等と、色々と楽しませてもらったスリラーの巨匠。
近年は『スネーク・アイズ』以降、すっかりダメな映画ばかりを発表するようになってしまいましたが、それでも大体は追いかけてしまいます。
ファンでしたからね。
しかしかつて大好きだった監督の凋落を観るのは悲しいが、一方で永遠のワンパターンというか、いつ何見ても金太郎飴状態なのも妙に安心感心してしまいます。
映画としては相当にヘンテコで、特に終盤はオリジナル版とかなり違うのではないでしょうか。
物語や台詞よりも、キャメラワークも含めた映像中心のトリック映画になっているのです。
常に自分の刻印を押してしまうこの人らしい。
さすがデ・パルマ!
映画としては相当に不出来です。
例えば殺人犯がいつから殺意を抱いたのか不明確とか、中盤のトリックはバレバレとか(但しこれはデ・パルマ映画の見過ぎかも知れません)、毎度毎度夢オチばかりとか、デ・パルマの悪いところ総取りの感すらありました。
しかも全くスリルが盛り上がらない。
ゆったりとしたカッティングやキャメラワークは、かつては優雅且つ胃の痛くなるようなサスペンスを盛り上げるテクニックだったのに…。
嗚呼。
策士策に溺れたか。
ノオミ・ラパスは演技力はあるけど、この手の映画でしかもデ・パルマ作品なのだから、華のある女優起用であって欲しかった。
ちょっと違うのですよね。
贔屓のレイチェル・マクアダムスは久々の悪女役、でも色気が皆無。
彼女はこの映画のように、如何にもファム・ファタール然とした悪女だと色気ゼロで、むしろ普段の様子の方が陽性の色気を醸し出すタイプ。
これもミスキャストだったなぁ。
大体にして、題材からするともっとねっとりとした官能が必用だった筈なのだが、それも映画全体に無い。
かつては艶のある映画を撮っていたというのに…。
艶もスリルも無いスリラーなんて、観る価値があるのか。
デ・パルマは、もうすっかり枯れてしまったのでしょう。
しかし往年のファンはこの映画を観る価値があります。
それでもかつてデ・パルマ映画に夢中になった身からすると、「やっとるやっとる」という大らかな気分で観てしまえる。
こうなると殆ど古典芸能の世界です。
スリルと官能と華が必用な筈の映画に、それらが全くないという致命的欠陥があるのに、そこそこ楽しんでしまいました。
となると、これはもう、デ・パルマのファン向け、マニア向け、愛好者向け、偏愛者向けの映画という事になります。
近年の作品を観るにつけ、監督としてはもうダメなのかも知れないけどね…いやいや、現在のデ・パルマは既にそういう存在じゃないんですよ。
永遠のワンパターン、映像先行のスタイルを楽しむというのが、正しい見方なのでしょう。
だから完全に贔屓の贔屓倒しで観る以外は、観るに堪えない映画の可能性もあります。