days of cinema, music and food

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The Counselor


リドリー・スコットの最新作であるスリラー、『悪の法則』をミッドナイトショウ鑑賞しました。
公開2週目の金曜0時10分からの回は10名程の入りです。


弁護士(マイケル・ファスベンダー)は美しい恋人ローラ(ペネロペ・クルス)も居るハンサムな野心家だ。
贅沢な暮らしを続ける為だろうか、ちょっとした金策とばかり、バーの共同経営者ライナー(ハビエル・バルデム)と一緒に、麻薬密輸ビジネスを始めようとする。
しかしトラブルが発生、弁護士の周囲にも脅威が襲いかかり、彼は何とかしようと必死にもがくが。


巨匠の新作は現代アメリカ文学の巨人コーマック・マッカーシーのオリジナル脚本を映画化したもの。
スコットは以前、マッカーシーの小説『ブラッド・メリディアン』映画化の企画を進めていたので、この組み合わせは納得が行きます。
マッカーシーの過酷で血生臭い世界とスコットの骨太な作風は、非常に似通っているからです。


しかし似通った者通しが組むと、残念ながら化学反応が起きない場合があります。
本作はそうでした。
実のところ、ふとした出来心で悪事に手を染めたばかりに、それまでの成功した人生から坂道を転がるように転落していく者の話など、今までも掃いて捨てるぐらいにあります。
しかも前述のように似通った資質を持つ2人です。
お互いの強靭な個性が似過ぎているからなのか、新しいものが生まれない結果となってしまいました。
北米では悪評だったし、IMDbでも評価低いのは、救いの無い展開と共に、そういったものも原因なのだと想像します。


その一方で、これは最後まで全く飽きさせる事無く見させる映画でもありました。
リドリー・スコットの演出はヴェテランならではの手際良さを見せるし、しかも後半、事態がドミノ効果のように悪い方向に進んでいくと、緊張感がいや増して行きます。
澱み無い緊張感と観ていて痛そうな暴力描写の切れ味。
特に終盤のとある人物の死に様は、じっくり描かれるだけあって強烈です。
暴力が売りでない映画だけあって余計に怖い。


豪華な顔ぶれの役者陣には、それぞれ見るべき点がありました。
特に怪演はバルデムの彼女役キャメロン・ディアス
近年、若作りのコメディ演技はちょっと苦しかったので、今後はこういう路線も良いのではないでしょうか。
バルデムは『ノーカントリー』『スカイフォール』に続けて、またもヘンな髪型。
明るく陽気な、だが事態を甘く見ている男を軽妙に演じていました。
主役のファスベンダーは前半のクールさから、後半の『ミュンヘン』におけるエリック・バナのように怯えきった状態まで、振幅の激しい演技で見せてくれます。
仲介人のブラッド・ピットも怪しい役で、こういうのが好きな人だよなぁ。
1シーンのみ出演のブルーノ・ガンツルーベン・ブラデスジョン・レグイザモら、ヴェテラン組も良い味を出していました。
豪華な顔ぶれですが無駄になっていません。


それでも1番のスターはコーマック・マッカーシーの台詞でしょう。
プロットそのものは目新しくなくとも、文学的且つ歯切れの良い、印象的な台詞が多かった。
実のところ、この台詞の数々が無ければ、凡庸なよくある映画の1本として、記憶にも全く残らない仕上がりに終わっていたかも知れません。
そして時折挿入される残酷描写。
特に首の切断に拘っており、麻薬カルテルの非情なまでにドライなビジネスの恐ろしき象徴として、異様なまでに効果的です。
しかもカルテルそのものの巨大な全貌は全く描かれていないのですから。
使い捨てのように手駒を消費していく様も含めて不気味です。


監督やキャストにとっての代表作にはならないだろうし、内容だって「だから?」と言いたくなるような教訓物語とさえ言えましょう。
私自身も二度と観る事がないかも知れません。
しかし後を引く強烈な印象を残すのも確か。
こういう激辛且つ、巨大で得体の知れない恐怖を描いた小さな映画も嫌いじゃありません。