days of cinema, music and food

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Rush


ラッシュ/プライドと友情』を鑑賞しました。
金曜日の20時40分からの回は40人程の入り。
公開当初は上映回数が少なかったのが増えていたのは、映画が好評だからでしょうか。


1970年代初頭。
オーストリアの資産家の息子ニキ・ラウダダニエル・ブリュール)は、跡取りにと考えていた親の猛反対を押し切り、自力で資金を集めて資金難のF1チームに飛び込む。
傲慢とも言える態度だが、図抜けたメカの知識でマシーン改造を指示し、オーナーやチームメイトの信用を得る。
一方、イギリス人ジェームズ・ハントクリス・ヘムズワース)は享楽的な性格。
荒々しいドライヴィング・テクニックの持ち主の伊達男だ。
やがてライヴァル関係となった2人は猛烈な対抗意識を抱くようになり、1976年の伝説的なシーズンを迎える事になる。


F1には全くの興味も知識も無い私ですが、ニキ・ラウダの名前は知っています。
ジェームズ・ハントは知らなかったけれども。
またロン・ハワードは、個人的には『スプラッシュ』や『バックマン家の人々』といった小品が良いと思っている監督でした。
バックドラフト』『遥かなる大地へ』『アポロ13』『ダ・ヴィンチ・コード』といった映画は、大画面映えしてそこそこ楽しませてくれたものの、盛り上がりに欠け、内容が空疎に思えたものです。
それでも私はこの映画を十分に楽しめたし、気に入りました。
この『ラッシュ/プライドと友情』は、ハワードの集大成、過去最高作と言っても良いのではないでしょうか。
エンジンの轟音と素早いカッティング映像だけのこけおどし映画ではなく、濃密で豊かな映画として上出来なのです。


2人の男達の描き方が良い。
毎年死者が出る当時のF1界において、方やありとあらゆる施策を行い、死の確率を20パーセント以下にしようとするニキ・ラウダ
方や死の恐怖を忘れる為に、レース前夜に酒を浴びるように飲み、女を抱き、レース前に嘔吐するジェームズ・ハント
このハントは、目の前の女という女を抱いた伝説のカサノヴァだそうです。
この一見すると対照的な2人は、しかしスピードと勝利に魅入られた男達、死神と争う男達でもあるのです。
珍しくプレイボーイを演ずるマイティ・ソーことヘムズワースも悪くありませんが、特にダニエル・ブリュールが素晴らしい。
複雑で一筋縄ではない、文字通り簡単にへこたれない、しぶとい男を魅力的に演じています。
必ずしも共感できない男2人以外は全員脇役という中で、野生児ハントとは対極の人間を演じていて心に残りました。


この2人の激突と化学反応も非常に面白く描いたハワードの演出は、珍しく短いショットを繋ぐ手法を駆使しています。
レース場面の緊張と恐怖、スピードと熱狂を映画に取り込むのに成功していました。
文字通りの迫力満点で、猛スピードの世界での視界の悪さまで再現しているのです。
ハワード作品には珍しく生々しいセックス場面も出てきます。
ナタリー・ドーマーアレクサンドラ・マリア・ララといった女優達も潔く脱ぐのも良い。
また、短いながらも生々しい人体破壊描写も、当時のレースの残酷さを端的に描いていました。
死の恐怖だけではなく、花形レーサー達の死をも売りだったF1界をも表しているのです。
かように映画全体で生と死を映画的に描写し、印象付けるのに成功していました。
総じて細やかな人間の描写という長所と、大作らしいスケール感を持ち合わせた、ハワードの集大成となっていると思います。
ハンス・ジマーのメカニカルな音楽も効果的でした。


ラッシュ/プライドと友情』は、1970年代当時のレーサーの激突を主軸に、臨場感溢れるF1界をも描いた秀作です。
死のはざまで生きる男達の姿を描いたこの映画を、是非とも劇場で観てもらいたいと思います。