days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Wolf of Wall Street


ウルフ・オブ・ウォールストリート』を鑑賞しました。
飛び石連休の谷間、平日月曜11時半からの回は30人程の入りです。


1990年代初頭。
ウォール街にやって来た無垢な若者ジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は、やがて26歳で自ら証券会社を設立。
アコギな商売で次々収益を増やして会社の規模も大きくして行く。
若き億万長者となった彼は豪邸に住み、モデルのような美女ナオミ(マーゴット・ロビー)を妻にし、豪華クルーザーを買い、セックスとドラッグにまみれ、人生を謳歌する。
ウォール街の寵児となった彼を、FBI捜査官デナム(カイル・チャンドラー)が目を付けるようになるが。


演技過剰、ナレーション過剰、映像過剰、音楽過剰、札束過剰、ドラッグ過剰、セックス過剰。
上映時間だって2時間59分もあります。
これは何もかもが過剰な痛快ブラック・コメディ映画です。
マーティン・スコセッシレオナルド・ディカプリオの過去のコンビ作品(『ギャング・オブ・ニューヨーク』『アビエイター』『ディパーテッド』『シャッター アイランド』といった作品群です。もっとも私は『ディパーテッド』は支持するけど)にどこか首をかしげ、往年のスコセッシ&デ・ニーロ作品に想いを馳せると、「あぁこのコンビは何で続けるんだろう。早く別れてしまえば良いのに」と嘆息していたのは過去のものとなりました。
ここのところ暫く、持ち前のパワーと輝きを失いつつあったスコセッシ作品としても、これは会心作でしょう。
グッドフェローズ』の疾走感こそ薄いが、ぐいぐいと太いタッチで人物を中心に映画を進めるのは、スコセッシならでは。
久々の本領発揮です。


モラルのかけらもない自己中心的な登場人物が殆どという、スコセッシのギャング映画と似通った異世界を描いたこの映画は、ウォール街に巣食う、搾取を生業とした男達の映画でもあります。
映画の冒頭で描かれているのは、オフィスで行われているパーティでは、小人を的に向けて投げつけて点数を競い、嬌声を上げている男女達の姿。
このオフィスではストリップや乱交パーティ、ドラッグの吸引が行われるのは日常茶飯事らしく、狂乱ここに極まれりの異空間なのです。
しかし主人公ベルフォートの周囲では、それが当たり前なのです。


そんな世界で異彩を放つのが、これも異様な造形の登場人物ばかりです。
うぶだったベルフォートを金儲けの権化に変えた上司ハナ役のマシュー・マコノヒーは、近年、すっかり目が離せない役者となりましたが、ここでも妙な歌を聞かせてくれ、笑わせてくれます。
若者を毒すには十分に魅力的な、そして毒気たっぷりな男役をマコノヒーは怪演していました。
副社長としてベルフォートの右腕となるドニー役のジョナ・ヒルは、出っ歯にメガネの外見と耳障りなしわがれ声を武器に、見るからに不快で、ずるがしこく、ねちっこく、とても友人にしたくないヤツ。
しかしヒルは、間抜けでどこか憎めない暴走男を演じています。
オフィスで見せる彼のとある奇行は、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』のケヴィン・クラインへのオマージュでしょう。
他にも見るからに頭の悪そうなベルフォートの忠実な部下達等も笑わせてくれます。
脇役で特に気に入ったのはベルフォートの父親でした。
近年は監督としてすっかり冴えないとの評価を受けているロブ・ライナーが、温和且つかっとなりやすく口汚い父親を演じていて、これもたっぷり笑わせてくれます。
ウディ・アレン映画でも笑わせてくれた元々コメディアンだった彼を、またスクリーンで観てみたい。


ここ10年ばかりのディカプリオには、常に深刻ぶって眉間に皺を寄せてばかりのワンパターン演技で少々辟易させられていました。
華麗なるギャツビー』に本作と、最近は柄に合った役と出会えて良かったと思います。
ここでは自らの悪に自覚的でありながら、享楽的な人生を謳歌すべく七転八倒する男を快演しています。
露悪的なまでの性格の悪さや往生際の悪さ等、近年の役と似通っているものの、普段よりもオーヴァーアクト気味なのが、このスケールの大きく、しかし結果的に個人に収斂していくブラックコメディに似つかわしい。