days of cinema, music and food

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La vie d'Adèle - Chapitres 1 et 2


邦題『アデル、ブルーは熱い色』を4月25日の昼間に鑑賞しました。
金曜日のBunkamura ル・シネマは結構な入りです。


17歳の高校生アデル(アデル・エグザルコプロス)は、上級生トマとの初デートに向かう途中ですれ違った、青い髪の女に目を奪われる。トマと付き合い出したアデルは、やがて彼に別れを告げ、ゲイの同級生に誘われて夜の街へと出掛け、偶然入ったゲイバーで青い髪の女と再会する。彼女はエマ(レア・セドゥ)という美大生だった。やがて2人は付き合い出すのだが。


日常の中で一瞬訪れる、息が止まるような一目惚れ。
そんなアデルのエマへの一目惚れに至るまでも、アデルの家庭や高校での生活などが、延々と執拗に、現実味を持って描かれいます。
だからいわゆる普通のラヴロマンス映画を期待すると、かなり違うのでしょう。
実際、私も「普通のドラマ映画」を期待していました。
ところが3時間ものこの映画は、いわゆる映画音楽の類は一切使われず、全編ドキュメンタリ・タッチで押し通すのです。
アブデラティフ・ケシシュの演出は1つ1つの場面を長く、こってりと、肌感覚で描き出します。
しかも偶然にカメラが捉えたかのような錯覚を、観客に覚えさせます。
また劇中では食事の場面が多く、また食べ方も皆、上品ではない現実味のある描き方で面白い。
中でも食欲旺盛なアデルがナイフまで舐める序盤の描写は印象に残りました。
同時に、これは綿密に映像が計算された映画でもあります。
青が至るところで配置され、またその使われ方も効果的でした。
例えば髪を青く染めなくなったエマの心。
あるいは青いドレスを着るアデルの心。
そんな色使いも読み解きたくなります。


物語だけ追えば、ハリウッド映画ならば2時間も掛からないであろう内容です。
しかしこの映画は、本筋に関係無いであろう会話場面でさえも長く描きます。
日常の授業場面でさえです。
先生の問いに対して、各生徒の反応を延々撮るのです。
アデルが答えなくても。
これは1人の少女の性と生を数年に渡って綴った映画に相応しいタッチとペースです。
何故ならその数年間の場面場面を抜き出したかのような作りになっているから。
原題の「アデルの時代」はそんな意味も込められているのでしょう。
だから何の変哲もない日常でさえ執拗に描かれているのです。


話題になっているリアルなセックス・シーンの数々も、欲情とか激情とか肉体のぶつかり合いをとかを描いていて、息を呑むよう。
特にアデルとエマの最初のセックス・シーンは、アデルの人生を変えてしまうような経験として、延々と強烈に描かれていました。
日本ならではの検閲の爪痕であるボカシが入るのは大変残念ですが、それも最小限だったのが幸いです。


燃えるような恋や嫉妬等を描きつつ、かといって単純な成長物語にはなっていません。
様々な体験をしつつも、辛い事を癒し、受容していくには時間が掛かるもの。
そんな経験を経ても、自分が変わるのはほんの少し。
時間が掛かっても、そのほんの少しの変化こそが本当の成長なのでしょう。
そこもまた現実的で、とても良かった。


アデル役のアデル・エグザルコプロスは全編出ずっぱりで、非常に強い印象を残します。
これが初の大役だそうですが、素晴らしい逸材がいたものです。
彼女には今後も注目して行きたい。
レア・セドゥも今までの映画とは全く違う印象で、こちらもとても良かった。
これはこの2人の女優を観る映画でもあります。
お勧めです。