days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Prisoners


プリズナーズ』鑑賞。


ペンシルヴァニア州工務店を営むケラー(ヒュー・ジャックマン)は、妻グレイス(マリア・ベロ)と共に幸せな家庭を築いていた。感謝祭の日、親友フランクリン(テレンス・ハワード)とナンシー(ヴィオラ・デイヴィス)の家に招かれて祝っていたところ、それぞれの夫婦の幼い娘達のアナとジョイが行方不明になってしまう。警察も含めて必死の捜索にも関わらず見つからない子供達。やがて10歳の知能しかない青年アレックス(ポール・ダノ)が容疑者として逮捕される。自白もせず、証拠もない為に釈放されたアレックスが何か知っていると睨んだケラーは、彼を拉致監禁。自らの拷問にかけて自白させようとする。一方、冷静沈着な刑事ロキ(ジェイク・ギレンホール)は、少しずつ事件の真相に迫って行くのだが。


「囚われ人たち」とは、何と意味深なタイトルなのでしょうか。行方不明の少女2人の事かと思って観始めると、それが色々な意味を帯びてくる事が明らかになってきます。愛する娘を探す必死さ余りに容疑者に対して一線を越える父親ケラー。彼は敬虔なクリスチャンですが、自らの罪に囚われていく。そのケラーに囚われるアレックス。今は優秀な刑事ロキも、少年時代に恐らくは問題児だったようですが、過去に囚われているのでしょう。全身タトゥーだらけのようですが、ワイシャツのボタンは常に1番上まで留めて隠しているのですから。椅子に縛り付けられたままミイラ化した男も囚われ人の1人です。迷路に取りつかれた男は、人心の闇のメタファーでしょう。全ての人は、何がしかの囚われ人だと言えるのかも知れません。


ミステリとしてあちこちに伏線が張られており、後半にはそれらが次々と回収されていくものの、作り込みが嫌味になっていません。捻りの効いた非常に完成度の高い娯楽スリラー/ミステリでありながら、ドゥニ・ヴィルヌーヴの演出とアーロン・グジコウスキーの脚本が、ずっしりとした密度の濃いドラマとしても成立させているからです。


映画は観る者に「あなただったら、どうする?」と突き付ける挑発的な内容も併せ持っています。事件に巻き込まれてしまう各人の反応はとても人間味があり、その誰かに自分を重ね合わせられるのが可能でしょう。必死さの余り暴力に訴える者。寝込んで臥せってしまう者。罪と知りながら止められない者。ヒュー・ジャックマンは愛する娘を見つける為に暴走していく父親を大熱演しています。もう一人の主人公であるジェイク・ギレンホールも素晴らしい。常に感情を抑えている冷静な刑事で、人間味も温かみも静かに演じていて。容疑者役ポール・ダノはこういう役が上手い。他にもヴィオラ・デイヴィステレンス・ハワードマリア・ベロメリッサ・レオらが、見事な演技を見せてくれます。


忘れてならないのが、名匠ロジャー・ディーキンスによる美しい撮影です。近年の『トゥルー・グリット』や『007/スカイフォール』等のような、1ショット1ショットが痺れるような構図はかなり控え目。その分、映画の語り部として貢献しています。HD撮影ならではのコントラストがはっきりした、しかも陰影に富んだ映像の数々。特にクライマクスの激走場面。あの美しさは何でしょう。登場人物の必死さとあの映像でもって、忘れえぬ場面となっています。


忘れえぬ場面と言えばあのラスト。救いはあるのか、どうなのか。深い心の闇と余韻を残して、ばっさり終わるタイミング。素晴らしい。