days of cinema, music and food

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Remember


手紙は憶えている』鑑賞。これは強烈なスリラーだった。


ゼヴ・グットマン(クリストファー・プラマー)は最愛の妻が1週間前に死んだことも忘れてしまう、認知症の90歳の老人だ。彼は同じ施設にいる友人マックス(マーティン・ランドー)から、1通の手紙を託される。君が忘れても大丈夫なように全て手紙に書いた、と。2人はアウシュビッツの生存者で、共にナチスの兵士に家族を殺されていた。その兵士は名前を変えて暮らしているのだという。容疑者は4人。探し出さなくてはならない。ゼヴは復讐の旅に出る。


名優クリストファー・プラマーの自然な演技がかえって凄味となっている認知症スリラー。アトム・エゴヤンは『スウィート ヒアアフター』、『秘密のかけら』くらいしか観ておらず、近作の『デビルズ・ノット』も見逃している。だがそのミステリアスな演出タッチが個性的で、観た映画はどちらも印象に残っていた。その演出に加えて、よくこんな話を考えたなというベンジャミン・オーガストの秀逸な脚本と相まって、忘れ得ぬ独特の雰囲気の映画になっていた。


主人公がかなりの高齢、しかも認知症なので、観ていてとにかくはらはらする。何しろゼヴは目が覚める度に、自分が今まで何をしていたのか忘れてしまい、妻を探してしまうくらいなのだから。ちょっと『メメント』を思い出させるね。そういった様と、その場その場の厭な雰囲気、そして物語が進むに連れての緊張感もあって、終始画面から目が離せない。だがもっとも強烈なのは、序盤から打ち出されている「被害者は年月が経っても決して忘れない」というテーマ。序盤から打ち出されているのに、終幕でさらに強烈な形で観客に突き付けられる。この巧みさには感心させられたし、かなりずしんと胸に来た。


主人公のプラマーがとにかく素晴らしい。脳内に霞がかかったような危なっかしい言動と、時折見せるぴしりとした動作のコントラスト。これが大袈裟でないのだ。容疑者役のブルーノ・ガンツユルゲン・プロフノウ(分厚いメイクをしていたので、クレジットを見るまで分からなかった)と、ナチスドイツ映画に縁のある役者達の共演も見ものだ。でも終始車椅子に乗っているのに、ゼヴを操るかのような温厚なマーティン・ランドー! あの度の強いメガネもあって静かな強い印象を残す。


原題は「Remember」。邦題よりも原題の方が内容には合っていた。