days of cinema, music and food

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スポーツニュースは恐い―刷り込まれる〈日本人〉


先日のニュースにあった、宇宙飛行士・山崎直子の記者会見に違和感を覚えませんでしたか?

  • 「ママさん宇宙飛行士」(男性の宇宙飛行士に”パパさん”宇宙飛行士とは何故言わない)
  • 男性記者の質問:「不在の間の家事は?」(家事は必ずしも女性がするものなのかいな)


試しにGoogleで「ママさん 宇宙飛行士」と検索してみましょう。
155,000件ヒットしました。
サイトによっては、「専業主夫」となった夫の功によって宇宙飛行士になれた旨書いているものも多いです。
トップ10は殆どがニュースサイトでした。
それでは今度は、「パパさん 宇宙飛行士」と検索してみましょう。
121,000件のヒットでした。
トップ10は必ずしも今回のニュースではなく、たまたま「パパ」と「宇宙飛行士」という語句が表示されているだけのものもありました。
但し検索結果のトップ10の内容をざっと見ると、私同様の疑問を持った上での記載も多いようです。
「男性だったらパパさん宇宙飛行士なのかいな?」と。


山崎氏が宇宙飛行士になれたのは素晴らしいことだと思いますが、どれもこれも彼女が女性であることによって貶められているように感じました。
これらは「宇宙飛行士になれるのは普通は男性であって、女性がなる場合は夫が家事や育児をやって助けてあげたから、山崎直子は宇宙飛行士になれたのだ」という無意識がありありと出ているように思えます。
でも男性が宇宙飛行士になった場合の記者会見なりニュースなりでは、「妻が家事や育児をやって助けてあげたから、○○は宇宙飛行士になれたのだ」といったニュアンスの報道にはならないでしょう?
今回の報道の傾向としては、女性飛行士を褒め称えるように見えて、実際には女性飛行士はもとより、女性そのものを貶めているように見えます。


と思うところの多いニュースの際に読んでいたのが、タイミング良く本書でした。
MLBに関する本の次に、アメリカという国をスポーツという面から切った本を読み、今度は日本のスポーツメディアによる刷り込みについて書いた本になりました。
NHK記者、『ニューズウィーク日本版』副編集長などをやっていた森田浩之の本は初めてですが、読み易く、納得したり疑問が浮かんだりで、読んでいて楽しい本でした。


この本の主張は「スポーツニュースはオヤジである」ということ。
つまりは女性蔑視をし、スポーツそのものよりもスポーツマンを取り上げ、スポーツマンに物語や国を背負わせ、ナショナリズムを主張する。
どれもが作り手の無意識らしく、つまりはこれらは「オヤジ」の特徴そのものではないか、というものです。


以前から、日本のスポーツメディアは純粋にスポーツそのものよりも、「物語」や「人間性」を好む方向が強く、どうにも好きではなかったのですが、こうして改めて列挙されると納得のいく場合が多かったです。
多少の飛躍が感じられるときもありましたが、概ね賛同出来るものでした。
また、女性蔑視の傾向についても、ユーモラスに、しかし鋭く切り込んでいます。


私自身、ワールドカップのときなどは「意識して」ナショナリストになったりしますが、これもお祭りとして割り切ってのこと。
ナショナリストとは必ずしも悪いものではありませんからね。
しかし普段から映像・活字の報道として、送り手が無意識にナショナリズムを密かに喧伝するのは、如何なものかという気もします。


勉強になったのは、世界の諸国の民族のレッテル、つまりは「アフリカ人は身体能力が高い」などといったものが、割と近年になってからマスコミを通じて発信されていた、というものです。


「分かる」とは物事を「分ける」こと。
分けることによって、知った気になるので楽ですから。
血液型性格診断もそうですが、科学的根拠がまるで無いものであっても、安易な分類の方が「分かった気になって気が楽」ですし、やはり人間は少しでも楽な方向に意識・無意識に関わらず進むものなのだなぁ、と再度実感したり。


マスコミのレヴェルも、どうやら国民の成熟度に比例するもののようですので、マスコミのみを批判も出来ないな、と自戒もしてしまったのでした。
読み手に意見を持たせる点で誠面白い、中々の好著だと言えましょう。


スポーツニュースは恐い―刷り込まれる〈日本人〉(生活人新書)

スポーツニュースは恐い―刷り込まれる〈日本人〉(生活人新書)