days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

暴走検察


西松建設事件を、検察対小沢一郎の権力闘争であると明快に記した好著です。
週刊文春小林信彦が「必読」と書いていたそうですが、いやまったく、読むと今の日本の状況がよく分かります。
実際には大したことのない不動産の記載漏れにしか過ぎないのに、事件の全容もよく理解されないまま、小沢一郎=巨悪のイメージばかりが世論を中心に形成されていますが、それもまた検察とマスコミが作り上げた虚像である、というのが本書の立場です。
私自身は以前も書いたように小沢一郎が真っ白だとは思わないけれども、今回の事件は騒ぎ過ぎだろう、と考えています。


著者は上杉隆週刊朝日取材班です。
がんじがらめになっている記者クラブに入っていないジャーナリストたちだからこそ、ここまで自由に書けたのではないか、と思いました。
同じ社内にも関わらず、その点においては朝日新聞とは雲泥の差ですね。


本書は週刊朝日に掲載されていた記事や対談を時系列に採録したもの。
その半分以上は読んでいたのですが、こうして順番にまとめて読めると分かりやすくなっています。
今の日本の問題、官僚とマスコミがお互いに依存し(上杉はこれを「官報複合体」と呼んでいます)、またマスコミ自身が官僚によって知らず知らずの内に洗脳されているということが端的に表されています。
すらすら読めるのに内容は濃い。


特に後半、小沢の元秘書・石川知裕議員の女性秘書を見せしめとばかりに違法に監禁・取調べし、小さい子供を迎えに行く時間になっても帰さず、また電話での連絡もさせなかったという検事のやり口は、読んでいて腹が立ちます。
この事件を記事にし、検事の実名も出した上杉隆週刊朝日の気骨には拍手したいものですが、一方、この事件を全く扱わない大マスコミも情け無い。
スリリングなのは、記事に対する検察側の反論書をコピーして掲載していること。
これが本当に検察特捜の書く文書かいなというくらい、反論になっていない反論であり、記事を事実と認めたようなもの。
さらには西松事件と小沢について、ロクに取材もしないままに、ネットやニュースをソースに二次創作とばかりに文章をでっち上げた立花隆への「引退勧告」など、歯切れの良さが目立ちます。


本書に限らず、他の週刊誌やWebニュースサイトを読んでも、先の事件は検察によるリークが酷かったとありました。
ヴェテラン記者でもそんなことはにわかに信じ難かったというのに、実際に取材するとそんな事実に当たって仰天、という記事もありました。
何でそこまで小沢憎しなのかというと、検察上層部人事への介入や、取り調べ可視化も含めた改革などへの徹底対抗とあります。
取り調べ可視化に関しても、法相就任前はやる気満々だった千葉景子が、就任した途端に官僚に取りこまれてトーンダウンしてしまうなど、とにかく官僚の抵抗は凄まじいようです。
根本には既得権益の死守があるそうです。


官僚からネタをもらうためにべったり擦り寄るジャーナリスト。
自らの都合の良いように世間を動かす為に、ジャーナリストたちにネタを配る官僚。
官僚のジャーナリストたちへの接待攻勢も凄いという話を聞いたことがありますが、消費税10%を大手マスコミが横一線に賛同するのもさもありなん。
そうなると世論も消費税率アップに傾くのも簡単です。
何でも一辺倒になる世論を見ると、安易に増税するよりも、本当にまだ無駄を削れないの?と思ってしまいます。


官僚が毎年ため込んでいる国家予算額が、年間の消費税5%とほぼ同額だとする報道も一部でありました。
しかしそれを削られたら、官僚にとっては既得権益を失うことになる。
だから消費税増税を画策している、というのです。
もしそうだとすると、納税者からすると全く持ってけしからん話です。


代表的な例ならば、薬害エイズ事件のように官僚は自らに不利な証拠は隠してしまいます。
そうした官僚の悪を暴いて名を挙げた菅直人が、総理大臣就任早々に情報公開の後退を行い、安易な消費税率アップをしようとし、天下りにも甘くなるのも、官僚の話にほいほい乗ってしまっているからでは、と見えてしまいます。
税率アップを言った途端に支持率が下がったので、しどろもどろになってきちんと説明出来ないところが、菅の総理大臣としての自覚の足りなさや、税率アップについての理解の無さが透けているようです。
逆に言えば、一国の首相をころりと寝返りさせる力を、官僚は持っていることになります。


一方、今世間で騒ぎ過ぎなくらいに騒がれている大相撲野球賭博問題も、記者クラブに入っていない週刊誌記者が発信源となりました。
相撲界で賭博が行われていたのは何十年も前から周知の事実で、マスコミもとっくに知っていたということです。
それを鬼の首でも取ったかのようにやれ自浄能力が無いなどと喧伝するのも、相当に面の皮が厚いとしか言いようがない。
官房機密費がジャーナリストたちに渡っていたとされる問題同様に、大相撲問題も、官僚からの接待の事実も、全て自らさらけ出す必要があるというのに、だんまりを決め込む新聞・テレビもしょうもないですな。


本書を読むと、そんな日本の現実に疑いを持て、また現実の一端を知る事が出来ます。
また、日本のあり方とはどうあった方が良いのか、考えてしまいます。
今週末の参院選挙前に、そんな事も考える機会を持てる点でもお薦めです。


暴走検察

暴走検察