days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

細く暗い境界線


ジョー・R・ランズデールの『ダークライン』(A Fine Dark Line)を読みました。
1958年のアメリカ南部を舞台にしたミステリです。


公民権運動が始まって3年。南部ではまだ根深い人種差別が残っていた(今も残っている所もあるようですが)時代。13歳の少年スタンが、越して来たばかりの田舎町で自宅裏に埋められていた手紙の束を発見します。手紙は少女の書いた恋文だったのですが、その手紙の発見を機に、スタンは過去にあった未解決の殺人事件の真相に迫ろうとします。


スティーヴン・キングの『IT』や、ロバート・マキャモンの『少年時代』を想起させました。少年が大人の世界を垣間見、成長しているノスタルジックなあの雰囲気。


そして、ここには本物の市井の人々が生きています。
ノスタルジーというオブラートに包まれているものの。
そのオブラートによって美化されているがゆえ。


正義感があり、家族想いではあるけれども、自らの差別意識には無自覚な父。
料理の腕が今1つな、でも当時としては進歩的で芯の強い母。
時々口喧嘩もするが共に真相に迫ろうとする、大人になりかけている美人の姉。
料理の腕前はピカイチで包容力のある黒人メイド。
アル中でムラッ気があるけれども、主人公に生きていく知恵を授ける年老いた黒人映写技師。
気が強そうに見えるものの、実は父親からの暴力に必死に耐えている親友。


主人公の眼差しに留まる誰もが光と陰を宿し、魅力的です。
それが私の心の琴線に触れました。


私にとっては、魅力的な人々との出会いも、読書の大いなる愉しみの1つです。
プロットを追うだけのジェットコースター小説も楽しいのですが、そちらは読み捨てに近い感覚。むしろ本の中での人との出会いの方が、読後の充実感があります。愛しいと感じられる本は、人がしっかり描かれているものが多いようです。


この小説の楽しみ方は、物語そのものよりも、人々を描く繊細なタッチに浸るのが良いように思えました。
無論、語りのテンポの良さで、物語だけでも十分に楽しめます。小説としての冗長な部分は全くありません。純粋な謎解きミステリ小説として読むには横道も多いのですが、1人の少年成長ものとしてかなり面白い。
言わば気取りの無いミステリ文学として充実しているのです。


ランズデールは他にも『ボトムズ』や『アイスマン』等の面白そうな小説もあり、個人的にちょっと気になる作家となりました。


ダークライン (Hayakawa novels)