days of cinema, music and food

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フェルメール全点踏破の旅


このゴールデン・ウィーク中に旅行をする予定はありませんが、本の中でならば世界各国を見聞を広められます。
題が表わす通り、17世紀の画家ヨハネス・フェルメールの現存する30数点全点を見るべく、7カ国11都市を回った記録を記したのが本書。
仕事とは言え、何とも贅沢で羨ましい旅です。


著者は朽木ゆり子というジャーナリスト。
かつて『日本版エスクァイア』の副編集長を務め、それ以降はニューヨークにて在を構えて執筆活動を行っているようです。
本書以外にもフェルメール関連の著作があるようなので、これは頼もしい。


本書を読んでいて楽しいのは、新書でも図版が全てカラーなこと。
その絵のテーマが何かを、分からなくとも分からないなりに、背伸びせずに著者の思考回路を書いてあること。
なぜその絵がその美術館なりに来ているのかとの由来を書いてあること。
これらを分かりやすく簡潔な文章にまとめているので読みやすい。
また各節が2〜3ページと短いので、通勤電車の途中下車の際にも、流れが分断されにくいことも挙げられます。


近年人気の高いフェルメールですが、これは多分に映画『真珠の耳飾りの少女』の影響もあるのでしょう。
あの映画は見逃していますが、本書にも『真珠の耳飾りの少女』が登場します。
小説及び映画では若い女中がモデルとされているようですが、本書ではトローニーではないかと想像しています。
トローニーとは不特定の人物を描いた肖像画及び上半身像とのこと。
実物よりも理想化されたり、表情が誇張されたもののようです。
これは、17世紀当時の肖像画のありようから来た推理で、そもそも肖像画とは後世にその人となりを伝えるものであり、しかも依頼人からの依頼があって初めて成立するものであった、と。


しかし全くモデルがいなかったのかと言えばそうではなく、モデルは必要だったけどその人の顔・形を描写するのが目的ではなく、飽くまでもテーマが主題である。
よってこの絵は肖像画ではない可能性が高い、としています。


このように楽しい本なのですが、欠点もあります。
それは各絵のサイズが全ては記されていないこと。
本書にもありますが、絵のサイズは大きな意味や効果を持ちます。
ですから文章中に記さずとも、各図版の下には記載してもらいたかったものです。


私が見たフェルメールは、ニューヨークのメトロポリタン美術館において。
本来ならばここには5点あるのですが、3点2004年9月末に訪れたときは3点しかありませんでした。
他所に貸し出されていたりしたのでしょう。
実はレンブラントを見たかったのですが、いざ現物を見ていたらレンブラントよりもフェルメールに心奪われました。
そのときの写真がこれらです。
実物はどれもかなり小さいものでした。


『眠る女 (A Maid Asleep)』


『窓辺でリュートを弾く女 (Woman with a Lute)』


『少女 (Study of a Young Woman)』


『窓辺でリュートを弾く女』は磨耗が激しく、眉を含めて顔の表情が平板になっているのが残念です。
しかし柔らかに差し込む光が醸し出す美しさと安らぎはフェルメールならでは。


これらの絵はちょっとした衝撃でした。
崇高でありながらも近寄りがたさとは無縁の作風にすっかり惹かれた私は、何度もこれらの絵の前に戻ってしまいました。
先に書いたようにどれも小さいものなので、親しみやすさも沸きます。
そういった印象を思い出すのと同時に、著者の推理するそれぞれの絵の意味や生い立ちを探る旅に同行するのは、楽しいものでした。


フェルメール全点踏破の旅 (集英社新書ヴィジュアル版)

フェルメール全点踏破の旅 (集英社新書ヴィジュアル版)