days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

とあるスターはかく語りき


先日書いたように、ドラマの主演男優に色々とお話を伺うことが出来ました。
場所は摂宅のリビング、時は待ちの間。
時間にして20〜30分でした。
録音などしている訳も無く記憶が頼りですので、幾つかにまとめて書いてみましょう。
取り敢えず男優名は仮名でTHさんと呼びます。


そもそも何で映画の話になったかと言うと、THさん専属のお付の方が我が家のホームシアターのDVD棚を見ながら、「THさんは映画好きなんですよぉ。こないだもマジックアワーがどうとか言っていて。」。


マジックアワー。
そう、日沈もしくは日の出の前後約20分は、独特の光によって幻想的で美しい映像となる。
こんな単語は普通の映画ファンの口からは出ません。
全編それだけで撮ったという、今ではとてもじゃないけど映画会社で企画が通らないであろうテレンス・マリックの『天国の日々』何ていう映画がありました(見てないけど)。


また私の父は、THさんがホームシアターを興味深そうにじ〜っと眺めていたとも言っていました。


複数証言(などという大袈裟なものではありませんが)からして、これはTHさんは余程の映画マニアに違いない。
きっと面白い話も聴けるだろう。
私の好奇心はどうにも抑えられません。
衣装替えの後、リビングのソファ・ベッドでくつろいでいるときを見計らって、THさんに話しかけてみました。


-THさんは映像派監督がお好き
Horka(以下、H)「THさんは映画好きだとお聞きしましたが、邦画と洋画、どちらをご覧になりますか?」
TH「僕は洋画ですね。」
H「どんな映画がお好きなんですか?」
TH「ええっとね、ヴィスコンティなんて大好きですね。」
H「あぁ、じゃぁ登場人物がヴィスコンティ好きというのは、THさんのキャラをそのまま使ったのですね。」
TH「いえ、違います。」
H「そうですか・・・」
TH「でも好きですね。僕はね、一番好きなのは『ルートヴィヒ』なんですよ。」
H「あぁ、ヘルムート・バーガーのですね。」
TH「そうそう。(やはりヴィスコンティの)『地獄に堕ちた勇者ども』はご覧になりました?」
H「いえ、観ていません。」※私、ヴィスコンティは遺作の『イノセント』しか観ていないのです。
TH「あれはね、シャーロット・ランプリングがとても綺麗なんですよ。」
H「あ、そうなんですか!実は僕、シャーロット・ランプリング大好きだったんですよ。」
TH「ほんとう?僕も大好きだったんです。いや、綺麗でしたよねぇ。彼女が一番綺麗だったのは『さらば愛しき女よ』。こう、薄いグリーンのドレスにネックレスでね、とても綺麗だった。」
H「綺麗でしたねぇ。『未来惑星ザルドス』はご覧になりました?」
TH「観ていないなぁ。」
H「ショーン・コネリーが主演のSFです。相当に変わった映画なんですが、そこまで追い掛けていました。」
TH「僕はそこまで追い掛けていないけど、シャーロット・ランプリングは好きでしたね。『さらば愛しき女よ』は良かった。」
H「あれは(レイモンド・チャンドラーの)原作よりも良かったですね。結末の付け方とかも上手く脚色していて。ロバート・ミッチャムも良かったし。」
TH「そうそう、そうでした。あとね、シャーロット・ランプリングでは『愛の嵐』も良かった。」
H「あれも良かった。Aさんは映画は映画館でご覧になるのですか?」
TH「僕はね、気になるとすぐに何回も巻き戻すの。だから映画館では観ないんです。」
H「やはり役者の演技とかが気になるんですか?」
TH「ううん、僕は演技よりも映像の方が気になるんですよ。」
H「あ、そうなんですか。それは意外ですね。」
TH「いくら俳優が良い演技をしても、やはり映像の力には敵いませんよ。」
H「クリント・イーストウッドが言っていますね。”最近の映画は台詞に頼り過ぎる。もっと映像で観客に伝えねば”。」
TH「そうそう。」
H「『スター・ウォーズ』の冒頭が映画史に残ったのも、映像の力ですよね。あの、スター・デストロイヤーが頭上を通り過ぎる。」
TH「あぁ、最初の『スター・ウォーズ』ねぇ・・・。僕はね、(ルーカスとか)スピルバーグとかよりもね、ええっと、あの監督が好きなんですよ。とても映像センスが良くって。」
H「誰でしょう?」
TH「マーティン・スコセッシ
H「あ、スコセッシ!僕も大好きな監督なんです。THさんはどの映画がお好きなんですか?」
TH「えぇっと、あれ・・・(中々名前が出てこない)」
H「(適当に言ってみる)『グッドフェローズ』?」
TH「そうそう、『Goodfellas』(突然、英語の発音になる)。」
H「『グッドフェローズ』は映画史に残る傑作ですよね。」
TH「あれは良かった。キャデラックの登場場面がね、何て色っぽいんだろうと思いましたよ。キャメラに(車が)入ってくるでしょう?横から撮って、タイヤを撮って。車が登場するだけなのに、あれだけ色っぽいんだから。」
H「序盤の場面ですね。確かにあそこは良かった。主人公がレストランに(彼女と)2人で行く場面があったでしょう?ずうっとカメラが延々2人を追い駆けていく。あそこも高揚感があってとても良かったですよね。」
TH「うんうん、そうそう。後はね、僕はリドリー・スコットが好きなんですよ。」
H「良いですね、リドリー・スコット。新作はご存知ですか?(と、新作『プロヴァンスの贈りもの』のチラシを渡す)。アメリカでは余り評判が良くなかったんですけど。」
TH「あぁ、これ。小説があるでしょう?」
H「えぇ、ピーター・メイルの小説が原作ですね。」
TH「こういうのはね、読むと面白いんだけど、映画にすると面白くない場合が多いんだな。」


-スターについて
H「最近はすっかり大物スターが居なくなりましたね。最後のスターはクリント・イーストウッドぐらいでしょうか。」
TH「そうですねぇ。昔は色々いましたからね。」
H「例えばジェームズ・スチュアートケイリー・グラントゲイリー・クーパーなんかもそうですが、決して演技が上手い訳ではありません。舞台的というか。」
TH「そうそう、そうです。舞台的ね。」
H「最近の演技はリアリズムというのもあるけれど、クラーク・ゲイブルなんて下手なのに、でも観てしまう。何故でしょう?」
TH「昔はスターシステムというのがあったというのもあるけれど、スターが監督を育てたし、監督がスターを育てた。例えばジョン・ウェインは拳銃をくるりと回しただけで、ジョン・フォードに「それだけでいい。君はもうスターだ」と言ったという話があるんですよ。」
H「良い話ですねぇ。」



-役者として意識すること
また話はマーティン・スコセッシについて戻っています。
TH「『ディパーテッド』はね、元の香港の方(『インファナル・アフェア』)が良かったな。悲しみがあって。」
H「『ディパーテッド』ではレオナルド・ディカプリオが主演でしたよね。最近の2枚目スターは、何で汚い役をやりたがるのでしょう?ディカプリオは『ブラッド・ダイヤモンド』や『ディパーテッド』でそうだし、ブラピもそうですよね。」
TH「綺麗な顔の人はね、(俳優生命が)余り長く持たないんですよ。日本では人気のあるジェームズ・ディーン。彼なんてアメリカではそうでも無いんですよ。彼は(命が)短かったから未だに人気があるんですよ。だからね、綺麗な顔の人は汚い役をやらないと、って知っているんですよ。本当の二枚目はね、ロバート・レッドフォードですよ。」
H「レッドフォードは本当の二枚目ですよね。」
TH「でもあの人はず〜っと同じ路線で、(演技の路線も)変わらなかった。で余り上手く行かないかな・・・と思っていたら、監督になってそっちの方が上手かった。ブラピはね、レッドフォードに似ているでしょう?」
H「『リバー・ランズ・スルー・イット』なんてそっくりでしたよね。」
TH「だから知っているんですよ、ブラピは。だから汚い役をやるんですよ。」
H「ハリソン・フォードも近年は悪役に挑戦したりしていますが、どうも上手くいっていません。」
TH「あの人は顔が綺麗過ぎるんでしょうねぇ。」
H「THさんは汚い役とか悪役とかをやりたいとか思いませんか?」
TH「やってみたいねぇ。でも話が来ないんですよ。」
H「やったら結構似合うと思いますよ。」
TH「そう?」
H「ええ。悪役の方が面白いという人もいますよね。」
TH「ううん、それは違うと思いますよ。やっぱり最後は悪い奴をやっつける役の方が気持ち良いというのはあるから。(観客の心に)残るのはそっちだもの。」
H「『ヴェラクルス』では、ゲイリー・クーパーバート・ランカスターで悪役のランカスターの方が残っていますよ。」
TH「でもそれはね、例外でしょう。僕はね、なるべく(観客に)共感してもらうよう、気を付けているの。カッコ良いとか言われるのは良いんだけどね、ハンサムと言われたら気を付けないと、俺ヤバイな、俳優としてヤバいな、と思うようにしているの。カッコ良いというのはね、共感してもらっているんですよ。でもね、ハンサム、まぁ僕はそう言われたことは無いですけどね、ハンサムって共感はしてもらっていないんですよ。だからハンサムと言われたら、俳優としてヤバいなと思うようにしているんですよ。」



結構面白い話を聴けました。
ここに書いた事以外にも色々あったのですが、まぁそれはちょっと内緒です(^^;
また既に記憶が曖昧な部分は書いていません。


ヴィスコンティ、スコット、スコセッシと好きな監督は皆映像派ばかり。
しかも、どうやら艶のある画を撮る監督がお好きなようです。
リドリー・スコットのどこが好きかとか、もっと色々突っ込みたかったのですが、残念。
それでも呼び出しがあるまでの間、かなり色々としゃべって下さりました。
お陰さまで私も大変楽しい時を過ごすことが出来ました。


それにしても。
世間では渋い二枚目俳優として知られているTHさんも、映画マニアでありながら俳優という視点でも観ていて、こういう面白い話をもっと聞き出せるインタヴュアーなり媒体がもっとあれば良いのに、とも思いました。


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