days of cinema, music and food

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Persepolis


先月ご紹介したアニメ映画ペルセポリス』の原作を読みました。
会社帰りにふらり寄った書店で見つけ、パラパラめくって即購入を決意。
衝動買いは滅多にしない私には珍しく、正に一目惚れです。


物語は映画とほぼ同様ですが、上映時間の都合上削られたエピソードも数々。
絵は映画版の監督でもあるマルジャン・サトラピ自身によるものなので、当然ながら同じ絵柄です。
と言うよりかは、映画版が原作の絵柄を真似た訳ですが。


映画版も素晴らしい出来でしたが、原作は正に傑作です。
1人のイラン人の少女の青春物語なのですが、読んでいて思わず感情移入してしまう。
主人公マルジに対するマルジャン・サトラピの視線はドライで、自らの欠点や弱点さえも辛らつに描いています。
突き放しているのに、ユーモアと反骨精神に彩られていて、全く飽きさせません。


ベールの下に隠されている女性たちの逞しさも目を引きます。
彼女たちは抑圧されていても、批判精神を忘れていない。
活き活きとした女性たちの描写も収穫です。


但し、1箇所だけ映画に比べて原作が物足りない箇所がありました。
それは2巻目後半に登場する、再生の場面。
そう、サバイバーの名曲『アイ・オブ・ザ・タイガー』が流れる場面です。
これは実際に音楽の力を借りられる映画の方がインパクトがあります。


それでも、そんなのは些細なこと。
この力強く、優しく、辛らつで皮肉な青春物語は、私の心を捉えて離しませんでした。
イランという内情は知られざる国が背景なので、下手をしたら単なる好奇心を満たすだけのマンガになっていたかも知れません。
しかし愛すべきマルジが経験する背伸びや意地悪、過酷な戦争や不幸、ドラッグや恋愛を通して、この本には自分探しというテーマが描かれているのです。
マルジは作者自身。
どこまでが本当なのかは知る由もありませんが、そうであっても自らに対する視線が印象的です。


オーストリアに留学に行けば自らをイラン人として意識し、数年の後にイランに帰国すれば自分が欧州人のように思える。
どこに行っても満たされぬ寂寥の思い。
人生の孤独感。
それは遠い異文化に思える中東でさえ、普遍的なものだったのです。
これが読んでいて胸を打ちます。
そして国際的ということは、極めて個人的なことでもある、というのもよく分かります。


シンプルな白黒の絵と、時に効果的なコマ割。
手塚治虫を思い出させるスピード感があるのに(最近の日本のマンガは展開が遅過ぎる!)、感情的なタメもある。
マンガならではの優れた表現が頻発する作品でもあります。
映画に興味を持たれた方にも、優れたマンガ本を求めている方にも、優れた文学作品を求めている方にも、断然のお薦めです。


今のところ2巻までしか出ていませんが、この後のマルジはイラストレーターやコミック・アーティストとして活躍していく筈。
その後の彼女についても知りたい、読みたいと思いました。


ペルセポリスI イランの少女マルジ

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ペルセポリスII マルジ、故郷に帰る

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