days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Fingersmith


サラ・ウォーターズの『荊の城』は、久々の大傑作でした。
『このミス』2004年度の1位だったので、読まれた方も多いかも知れません。


19世紀はヴィクトリア朝ロンドンの下町。
泥棒一家に育てられた17歳孤児スウは、「紳士」なる顔見知りの詐欺師から、とある計画を聞かされる。
人里離れたとある城に住む、頭の弱い若い娘モードをたぶらかして結婚、結婚後は精神病院に放り込んで財産をぶん取るのだ。
スウは新しい侍女としてモードに仕え、紳士の手助けをするのが役目だ。
生まれて初めてロンドンを離れたスウは、モードに会う。
現実のモードは世間知らずだがか弱い、そして純真な少女だった。
紳士から聞かされていた話との落差に驚くスウは、やがてモードに惹かれていくが、冷酷にも計画は進めなくてはならなかった。


まずは臭いが漂ってくるような下町の描写が圧巻です。
不潔な環境、荒んだ子供たち、公開処刑など、緻密で語彙豊かな情景に圧倒されます。
読者をいきなり別世界に引き擦り込むかのよう。
情景だけではなく、少女の心理の変化や葛藤など、緻密な描写も読み応え満点です。


この小説が素晴らしいのは、娯楽としても一流であること。
緩急自在のテンポで物語りながら、幾たびものどんでん返しで読者を驚かせます。
ジェフリー・ディーヴァー(いや、好きな作家ですが)のように読者サーヴィスありきのどんでん返しではなく、必然としてのそれであり、やがて予想もしていなかった物語が、徐々に読者の前に現れて来る様はスリリングです。
構成も見事。
視点の切り替えも鮮やか。
濃密な恋愛心理や精緻な文章も含めて、読書をする喜びを味わえる本です。


表紙の絵は、ブロンヅィーノの肖像画2枚のそれぞれの部分拡大。
拡大されているのは”手”。
原題のfingersmithはスリの意味のようですが、小説中にも手・指が触れることによって、官能的に心理に影響を及ぼす様子が描かれています。
中々うまい選択です。


作者はチャールズ・ディケンズを意識したそうですが、残念ながら私は未だに読んだことがありません。
家に何冊かあるので、挑戦してみましょうか。


荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)


BBCでドラマ化されているんですね。
日本ではWOWOWで放送後、DVD化もされています。
どのように映像化されたのか、興味そそられますね。


荊の城 [DVD]

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