days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Affinity


先日読んだ『荊の城』を大層気に入ってしまったので、サラ・ウォーターズがその前に書いた『半身』を読みました。
こちらは文庫本で1冊です。


「このミス」2003年度の1位などになっているので、既にお読みの方もいらっしゃることでしょう。
大傑作『荊の城』に比べるとちょっと落ちますが、これはこれで秀作だと思いました。
でも「このミス」1位だからといって取り掛かると、しっぺ返しを食らう可能性も高い作品でもあります。
『荊の城』の読み易さ、あちらのピカレスク・ロマン振りに比して、娯楽性に乏しく、内省的な心理小説の趣きなのです。


物語は1874年の主人公である貴婦人マーガレットの日記と、1873年の主人公である霊媒師シライナの日記によって、ほぼ交互に語られます。
マーガレットは女性刑務所の慰問に訪れているのですが、そこで若く美しい、不思議な雰囲気のシライナと出会います。
2人の人生が交錯し、現在進行形のマーガレットの日記と、シライナの過去の日記によって、物語が浮かび上がって来ます。


マーガレットも現代の基準からすると若い女性なのですが、当時は嫁に行きそびれたオールドミス(死後か)。
徐々にシライナに心惹かれて行くに従い、不思議な現象がマーガレットの周りに起き出します。


『荊の城』でも顕著だった、ディテールの細かさが凄い。
刑務所の内部だけではなく、心理描写の緻密なこと。
このこってり濃厚な重苦しい雰囲気に、窒息してしまいそう。
本作も『荊の城』同様にレズビアン小説としても読めるのですが、娯楽ミステリ風味は『荊の城』に任せましょう。
終盤の衝撃的な展開はさすがですが、そこから逆算してあちこち読み終えたページの内容を思い出してしまいます。
それだけ用意周到な伏線が用意されていた、ということなのでしょう。


しかしミステリ小説を期待すると、当てが外れて不満に思う人もいるに違いないです。
人の心理こそ、一番ミステリだと思う私にとって、これは十分にミステリ小説だと思うのですが・・・。
変化する心理や超心理現象をまとわせたプロット、それに緻密でいながら幻夢的な雰囲気と、どれも小説を読む喜びでしか得られないもの。
本読みであれば、ミステリである以前に上質な本に惹かれると思うのですけれどもね。
閉鎖的な上流社会からの脱出を願うマーガレットは報われるのか。
これが最大のサスペンスとなっています。
ですからヒロインにどこまで感情移入出来るかが、本書の世界にどこまで入り込めるかの鍵となります。。


ラスト1行の”誤訳”について、ネットでは色々と言われているようですが、確かに原文からするとちょっと違うかも。
もう少し「柔らかく」訳しても良かったかも知れませんね。


さて、IMDbによると映画化されたようですが、これの映像化って相当に難易度が高そうです。
果たして上手く映像に移し変えられたのか?
IMDbでは余り評判は宜しくないようですが・・・
それでも興味シンシンです。


半身 (創元推理文庫)

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