days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Road


このところ英国文学っぽいのを読んでいたので、アメリカ系の小説を読みたくなりました。
ということで、アメリ近代文学の巨匠コーマック・マッカーシーピュリッツァー賞受賞作『ザ・ロード』を買ってみました。
この作家を読むのは初めてですが、小説『血と暴力の国』を映画化した『ノーカントリー』は観ています


ザ・ロード』はハードカバーで正味250ページほどの小品です。
恐らくは核戦争後のアメリカと思わしき場所が舞台。
文明は死滅し、灰色の雲が常に空を多い、地上は荒涼として寒々しい世界になっています。
父と幼い息子の2人が物資を載せたショッピングカートを押しながら、南へ向かおうというロードノヴェルがこの小説です。


襲い来る無法者たちや食人をいとわない略奪者を避け、時には撃退しながら、父は息子を守り抜く為ならばどんな非道なことも躊躇せずに行う覚悟を持っています。
息子は純真たる良心を持っていますが、やがて暗黒の世界に飲まれてしまうのか。
そんな緊張をはらみながら、旅行く2人と過酷な状況を描いていきます。


以前から思っていたのですが、よく「親として」の思いが強過ぎて「人として」それはどうなのよ、と思える人も見掛けますが、この小説の主人公である父親もそう。
「親として」と「人として」は重なる筈なのに、そうでない言動の人が出るということはどういうことなのか。
人間性の意味について考えさせられます。


登場人物は1人を除いて名前がありません。
章の類いは一切無く、短くて数行、長くて2〜3ページの断片からなり、読点は1つのパターン以外一切無く、台詞も「」を使用していません。
変わった文体ではありますが、読み難いとか内容を把握しにくいなどはありませんでした。
但し読書慣れしていない人には厳しいかも知れません。


世界の終わりを描きながら、そこに希望を見出せるのかどうか、人間らしさを失わずにいられるのか、それが主題のように思えました。
それらの主題を、普遍的な神話形式とでも呼ぶべき手法で描き切った点で成功しているし、描かれている物語同様に、私も「先へ、先へ」との思いにかられながら読み進めることが出来ました。
何の説明も無いままに時空を変えたエピソードも登場しますが、これもまた文学を読む楽しさに繋がりました。
読後の余韻もまたひとしお、です。


北米では年末公開予定の映画版では、父親役をヴィゴ・モーテンセンが演じ、他にロバート・デュヴァルシャーリーズ・セロンガイ・ピアースらが出演するそうです。
あぁきっとあの役なんだろうな、などと後から思い当たる役もあります。
文体で描き切った荒涼感、絶望感、希望が、映画ではどのように描かれているのか、そちらも楽しみです。


ザ・ロード

ザ・ロード