days of cinema, music and food

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Cinefex: Number 29


幾度かご紹介していた特撮専門誌『シネフェックス』日本語版ですが、今回読んだのは今までのバンダイ版ではなく、トイズプレス版です。
こちらも現在は絶版となっています。
本国版同様に35mmスタンダード(画面比1.33:1)フィルムと同じ比率だったバンダイ版に対し、トイズプレス版から現在に至るまで、普通のA4サイズとなってしまいました。
コストの面での判断なのでしょうが、面白みと映画への敬愛の念が薄れてしまったようで、少々残念です。
とまれ、風邪で寝込んでいるときには、このような読み慣れた書籍も良いものです。


今回読み直したのは、私自身のベストフィルムである1968年の名作『2001年宇宙の旅』特集号。
2001年発行なので、かれこれ7年前。
内容は殆ど忘れてしまっていたので、再読して新鮮な気持ちで楽しめました。


発行人のドン・シェイが、1970年代半ばから取材して、書き留め、いつか書籍として出版するつもりだったものを、2001年の『シネフェックス』の特集として世に出したものとなっています。
スタンリー・クーブリックスタンリー・キューブリック)へのインタヴューは叶わなかったそうですが、ダグラス・トランブルを始めとする特撮マン、製作スタッフたちの、まだ左程記憶が薄れていない時点でのインタヴューは読み応えがあります。
如何に製作が困難を極めたかがよく伝わって来ますが、彼らの肉声によって浮かび上がるクーブリックこそが、やはり製作困難の元ではないか、とさえ思えてくるのが愉快です。


あれこれ「食えない」完全主義者クーブリックのエピソードが出て来ますが、私自身一番驚きだったのは、あれほど映像にこだわる元フォトグラファーだったクーブリックが、脳内で映像もしくは画像として想像するのが極端に苦手だったということ。
画に対する嗅覚鋭い天才であっても、想像によって画を作る能力に欠けているというのは、幾度と無く撮り直し、作り直しをさせた完全主義者となった理由の一端を見るようです。
また、バカらしいアイディア、実現無理なアイディアであっても、実際に自分の目で確認しないと気が済まないというのも面白い。
これもまた、想像力に欠けていたクーブリックらしいエピソードということになるのでしょう。


まぁしかし、映画が製作された1960年代半ばでは、まだクーブリックは巨匠とは言われていなかった筈。
しかしスタジオ内での尊大振りは変わらずだったのですね。
その彼を受け入れて仕事を進めていったスタッフ、やってられないと降板したスタッフ。
上手く作業工程を見付からないよう(見付かると間違いなくNGが出る為(笑))隠し通し、出来上がりで満足させていた、などというエピソードも含め、中々可笑しい。
『シネフェックス』の文体は、どれも専門誌らしく硬く、ユーモアが殆ど無い文章なのですが、読んでいて含み笑いが起こることしばしばでした。


この号では、他に『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』、『グリンチ』、『レッド・プラネット』、『バーティカル・リミット』が取り上げられていました。
古書店で見掛けたら、『2001年』ファンの方は是非、手に取ってみては如何でしょうか。