days of cinema, music and food

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アメリカ映画風雲録


優れた目と感覚を持つ評論家として、私が今一番切れ味鋭い人ではないか、と思うのが芝山幹郎です。
週刊文春』映画採点コーナーでも、1人だけ異彩を放っている短いコメントを出していて、お読みになっている方も多いでしょう。
映画だけではなく、野球にも鋭い嗅覚を発揮するのは、2年前にもご紹介しました。
今回は映画に関する書籍です。


書名の通り、取り上げられるのは気骨のある、男性派監督ばかりというのが面白い。
いや、スターの名前も出て来ますが、これは監督への視点が主体となった本なのです。
表紙をご覧下さい。
左列上からサム・ペキンパーフランシス・フォード・コッポラスタンリー・キューブリック(この表記にはどうも違和感が。やはり「クーブリック」でないとしっくり来ない・・・のは、著者もどうようだったようです)、右列上からクエンティン・タランティーノクリント・イーストウッド、それにイーストウッドの師匠(本書を読むと、どちらかと言うと兄貴分のイメージ)ドン・シーゲル
表紙に登場しない監督だと、ロバート・アルドリッチセルジオ・レオーネ、それに本書では例外にスターであるジョージ・C・スコットが取り上げられています。


私の好きな『ロード・オブ・ザ・リング』、『スター・ウォーズ』、『インディ・ジョーンズ』などはどうも好きになれないと告白する著者ですが、そんな著者と私の好みは結構似通っているところもあるので、本書に取り上げられている映画を殆ど観ており、そのためもあって実に面白く、興味深く読み進められました。
250ページほどの本ですが、余りに面白くて2時間で読み終えてしまったことも、ここに添えておきましょう。


何が面白いって、取り上げられる男達の気骨だけではなく、一歩間違えれば「変人」「怪人」の行動が面白く、また著者の彼らに対する視点や切り込み方がいちいち鋭い。
一筋縄ではいかないハリウッドに巣食うスタジオの顔役・・・いや、重役たちとの駆け引きもさることながら、風雲児たちに対する愛でる心が根っこにあるので、読んでいて心地良いというのもあります。


ダーティハリー』、『ゴッドファーザー』、『キル・ビル』等、有名な映画も多いので読者の間口は広いのですが、特に著者の力が入っているのが、サム・ペキンパーの大傑作『ワイルドバンチ』です。
他の作品に関する記載同様に、丹念に資料を当たり、そこに著者の視点を入れ込む手法は、ここではさらに念が入っているように思えます。
単純なページ数の多さだけではなく、著者のこの映画に対する暑苦しくない温かさがなせる業ではないでしょうか。
丹念に資料を当たって読み込み、映画を読み解くのは町山智浩も同様です。
その点、この2人は信用の置ける映画評論家と申し上げて良いでしょう。
ですが、文章への自らの視点の入れ方とその表現手法においては、現在では芝山幹郎の右に出る人は居ないのではないでしょうか。


すらすら読み進めながら、著者特有の鋭くも粘っこい言語感覚を読者側はすくい取る事を忘れてはならず、すくい取った言語を舌の上で転がすワインのように想像しながら租借するという、スリリングですらある読書の愉悦に浸れる。
それが本書最大の愉しみです。


アメリカ映画風雲録

アメリカ映画風雲録