Hard Frost
第1巻の『クリスマスのフロスト』でハマって以来、シリーズが出版されるのが楽しみなフロスト警部シリーズ。
最新刊の『フロスト気質(かたぎ)』も大いに楽しませてもらいました。
イギリスの架空の地方都市デントンを舞台に、何故かいつも人手不足の警察署管轄内で頻発する事件を、次々並行して追っ掛ける、いわゆるモジュラー形式の警察小説です。
主人公のフロスト警部は、頭の毛も薄くなりつつある中年男性。
よれよれのスーツに海老茶色のマフラーを首に巻き、ヘビースモーカー。
いかにも風采の上がらないルックスは刑事コロンボか。
実は外見と違い、フロストは頭脳明晰な名警部なのです…となればまんまコロンボなのですが、これが全く違います。
「ちんぽこ」を連発し、セクハラは当たり前、最悪のタイミングで最悪のジョークを披露し、仲の良い同僚を見つけるとすかさずカンチョー!(仲の悪い相手でもやりますが)
書類仕事は大の苦手で机はいつもごちゃごちゃ汚く、気紛れで記憶力も不鮮明。
適当な推理を連発して間違うのは当たり前。
建前とプライドと無責任さがトレードマークの、俗物を絵に描いたような無能な署長のマレット警視からは睨まれ、署長室に呼び出されて説教を食らうことしょっちゅう。
しかし彼の凄いところは、ワーカホリック振り。
とにかく諦めない、休まない。
睡眠時間は殆ど取っていないのではないかという感じで、不眠不休で働きます。
どの小説も数日間の出来事が描かれているのですが、常に何かが起こり、弛緩する暇がありません。
そして最後は何だかんだで、偶然もあったりして全て事件は解決されます。
シリーズの最初からどれも長い小説でしたが、巻を追うごとに長さも複雑さも増す一方。
とうとう最新刊は上下2巻となりました。
私の家にはペーパーバック版が何冊かあるのですが、私は未読でした。
読みたいと思いつつ、和訳で読みたいし、それ以前に難しそうなので読めなさそう。
悶々とすること数年でしたので、7年振りに翻訳された日本版を貪るように数日で読み終えたのは、少々勿体無かったかも。
それぐらいに、久々に面白く、読み応えのある小説でした。
毎回、フロストには出世欲の塊のような新人刑事が付いて、フロストを馬鹿にして毛嫌いしつつも、結局はフロストに振り回されてひどい目に遭うのですが、今回もしかり。
今回はシリーズ初の女性刑事。
しかし彼女のつっけんどんな態度も、女性差別が露骨な環境の中では致し方ないと思わせます。
環境と言えば、フロストの立場も微妙に変わった気がします。
何となく下っ端警官らの人気者になったような。
だらしなくとも最後は事件解決に導くフロストに対し、周囲の目も変わってきたのだろうか、などと深読みも出来そう。
いや、何よりもフロストの持つ温かみのある人間味に惹かれるのか。
…などと感心していると、たまに彼の同情を逆手に取った超テキトー振りに裏切られます。
しかしこのシリーズ、主人公の明るいイメージとは正反対に、登場する事件は毎度陰惨そのもの。
浮浪者惨殺、乳児殺害、幼児誘拐、老人殺人…と、現代社会の暗い闇を反映しています。
そんな世知辛いを通り越した世の中に対し、わずかながらも抵抗を試みているかのようなフロストに、声援を送ってしまうのは当然でしょう。
円熟味溢れる語り口と、毎回の終幕の迫力ある展開。
軽妙でありながらも、計算の行き届いた構成。
読書をする喜びが味わえます。
何年翻訳に時間が掛かっても、いつまでもフロストの活躍を読みたいものだと思っていたら、作者のR・D・ウィングフィールドは亡くなっていたのですね。
残念無念。
未訳長編も残り2冊となってしまいました。
ここは遅筆な訳者なのを幸運と考え、次回作を首を長くして待ちましょう。
待つ楽しみもあるのですから。
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シリーズ未読の方は、まずはこの第1巻から。
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好調第2巻です。
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第3巻も傑作です。
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どの作品も素晴らしい出来。
苦味もありますが、不幸な世の中に戦いを止めない姿は、『セブン』の主人公、モーガン・フリーマン演じた刑事に通じるものがありますね。