days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

graphic novel "Watchmen"


先日は映画版をご紹介しましたが、今日は原作版のご紹介。
アラン・ムーア作、デイヴ・ギボンズデイブ・ギボンズ)画のいわゆるアメコミですが、これが単行本として1冊にまとまると「グラフィック・ノヴェル」となるようです。
全12話。
文字量も絵もぎっしり。
日本語版はA4版464ページ、スリップケース入り、定価3,570円という大型本です。
この手のアメコミ本は読みたいときに買っておかないと、あっという間に絶版ですから、欲しい方は今のうちに買っておいた方が良いでしょう。
かく言う僕も、1998年に出た最初の『ウォッチメン』日本語版を買いそびれて、その後激しく後悔したものでした。
ネットではぼったくり価格で取引されていましたからね。
読みたい本とは言え、3万円も出すのはちょっとどうかと思いますし。


さて本書のマンガとしての体裁ですが、画像をご覧の通り、基本的に1ページに9コマで構成されています。
1ページの情報量がとにかく多い。
コマ割が変化に富んだ日本のマンガに比べて、読んでいて窮屈に感じられるのはこの為でしょう。
いわゆるキメのコマ等この限りではないのですが、基本的には9コマです。
この為、キメのコマ割全開となった第12話のカタストロフ場面がより衝撃的に感じられます。
このカタストロフの様子が映画はかなり変更していましたが、変更して正解でした。
映画とマンガは違いますからね。


加えて、1コマの中身も情報量が多い。
看板、書名、新聞記事の見出し等々、それらがいちいち作品世界を読み解く鍵ともなっています。
それらについては現在更新中のblogがあるので、そちらも参照しながら読み進めるのも良いかも知れません。

内容はかなり凝った構成。
各話の最後に、ヒーローの自伝、新聞記事、警察の調書等が入っており、これが世界を広く感じさせます。
また物語も素直に一直線で語られる事は無く、回想場面に飛んだり、登場人物が読んでいる海賊コミックと並行して進められたりします。
映画版では回想場面は引用されていましたが、海賊コミックはばっさり捨てられていました。
よってコミックを読んでいる人の役割はかなり小さくなってしまっていましたが、あれはあれで正しい判断でした。
但しわき道が無くなってすっきりした分、一般市民の登場が減った為に作品世界が狭まった感があるのと、それまで登場していた脇役たちの無慈悲な死の衝撃度が無くなり、クライマクスの決断に対しての印象も変わってしまった感があります。
また各話巻末には、0時を差すと核戦争突入による人類滅亡を示す「世界終末時計」が0時に近付く様と、時計に向けて血が徐々に滴って来る絵も入っています。
これが世界の滅亡の危機感を煽ります。


実は本書の直前に以前ご紹介したVフォー・ヴェンデッタ』も読み直しました。
立て続けに読むと、アラン・ムーアの特徴が分かったような気がします。
この人は政府=権力を信用していませんね。
また、大衆にも全面的な信頼を置いてはいない。
とは言え人間嫌いでもなさそう。
そんな人間に対する醒めた目線が、彼の特徴ではないでしょうか。


尚、本編終了後には『Vフォー・ヴェンデッタ』同様に、作者達によるメイキング文章や設定資料集などもあり、こちらも内容が豊富です。


やや凝り過ぎの感もあり、構成が散漫に感じられる箇所もありますが、読み応えは十分。
これはパワフルな傑作です。