days of cinema, music and food

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サタデイ・ナイト・ムービー


風邪で寝込んでいると、軽い読み物が欲しくなります。
それも読みなれたものの方が脳に負担が少ない。
ということで、今回は既に10回は読んでいると思われる本を読みました。
ミステリ作家都筑道夫の『サタデイ・ナイト・ムービー』。
奇想天外社から1979年発行、250ページ弱のハードカバー本。
装丁は和田誠によるものです。


この本を買ったのは恐らく三軒茶屋で25年程前かと思われます。
私が買った時点で、既に古本屋で買ったものを三茶の古書店に売っていたものだったようですが、当時既に奇想天外社自体が倒産していた筈。
SF関係やアニメ関係の面白い書籍を色々出していた会社だったようですが、マニアック過ぎたのでしょうか。
ちょっと残念です。


本書は1976年から1979年に書かれた、雑誌等に掲載されていた映画評(もしくはエッセイ)を集めたもの。
軽妙な筆も楽しいのですが、全体に鋭くも怪奇映画好きのラインナップもマニアックで面白い。


1番最初に「華麗なるB級映画」として紹介されているのが、スティーヴン・スピルバーグの『JAWS/ジョーズ』。
「ストーリイが少しだれると、すかさずショックを与えるあくどいほどの技巧と同時に、ねいねいに段どりをつけていく細かい神経も働かしている。」と褒めながら、「几帳面に伏線を張りすぎて、鮫を退治する方法がわかってしまうのと、漁船と海岸の距離があいまいなところだけ、気になった。」と欠点を指摘し、それでも「翻訳を読んだかぎりでは、あまり小説技巧のうまくない原作よりも、映画のほうがすぐれている」とし、的確な批評を加えています。


他にも「知的な遊戯『未来惑星ザルドス』」「『エクソシスト2』は大傑作なのだ」「深みのない『ザ・ディープ』」「見逃せないハリイハウゼン*1」「皮肉で爽快な『カプリコン・1』」などなど、ジャンル映画がユーモアと時には手厳しさでもって数多く紹介されています。
ブライアン・デ・パルマもお気に入りだったらしく、『愛のメモリー』、『フューリー』などが褒められていました。


一方では邦画への手厳しい評価も多い。
ミステリなのに情に流されたり、展開が支離滅裂だったりと、あとがきにも書かれているように「筋が通っていない映画」が嫌いだから。
読者によっては都筑道夫と意見の相違は無論あるでしょうが、文章としては読んでいて筋が通っているので納得はします。


公開当時1番の話題作と言えばやはり『スター・ウォーズ』。
本書でも3度も取り上げられていて、ジョージ・ルーカスの演出技術は余り冴えなくとも、特撮や美術などの技術スタッフを使い切ったのを最大の功績とし、これまた着眼点が鋭い。
また『スター・ウォーズ』関連では、フィル・ティペットリック・ベイカーへの言及もあり、ベイカーに関しては『キングコング』の着ぐるみ担当だったこともちゃんと書いてあるだけではなく、『溶解人間』なんてC級SFホラーの紹介までされています。


全体にミステリ作家らしく論理的な展開を気に掛けるのも、いちいち面白い。
読んでいて面白いだけではなく、全体にバランス感覚も秀でていたのが、筆者の素晴らしさだったのでしょう。
同時に、このような軽妙洒脱かつ納得の行く批評を書ける映画評論家が殆ど絶滅状態なことも気付かされます。
かつては(まだ存命ですが)双葉十三郎とかいたのになぁ。


と何度と無く楽しませてもらっている本書ですが、作者が既に2003年に亡くなっていたことをつい先ほど知り、ちょっとしたショックでした。
享年74歳とはまだ若い。
本書の続篇があれば読みたかったものなのですが。


文庫本も出たようですが、既に絶版の模様。
映画好きの方は見付けたらお手にとってみては如何でしょうか。

サタデイ・ナイト・ムービー (1979年)

サタデイ・ナイト・ムービー (1979年)