days of cinema, music and food

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Batman: The Killing Joke


アラン・ムーア作、ブライアン・ボランド画・彩色の『バットマンキリング・ジョーク 完全版』を読み終えました。
本編は50ページ弱の中篇で、これが1,890円とは高い。
まさかここまで薄い本だとは予想もしていませんでした。
明らかにバットマンのファン、アラン・ムーアのファン、しかもコアなファン向けの本となっています。
逆に言えば、コアなファンにとっては嬉しいプレゼントでしょう。
ハードカバーの表紙、ボランド自身の作による短編『罪無き市民』の収録、ボランドによるあとがき、ムーア作品の邦訳ならではの注釈などが収められています。


内容は宿敵ジョーカーとバットマンの闘いとなっていますが、ジョーカー側からの視点が主眼。
ジョーカーは元々は売れないコメディアンのジャックで、身重の妻もいる小心者との設定になっていました。
悪い連中にそそのかされ、以前勤めていた薬品会社に強盗に入ろうとするものの、妻は事故死。
しかし半ば強制的に強盗を決行され、登場したバットマンに追われる途中で溶液に落下、ジョーカーに変貌してしまいます。
狂人であるものの、悲哀を感じさせる人物になっていました。


ジャックの回想場面、バーバラ・ゴードンの不幸、ジョーカーに撃たれて重態の娘の全裸を見せ付けられるジェームズ・ゴードンの描写など、痛ましい描写に満ちた作品でもあります。
一方のバットマンは殆ど内面が描かれず、彼は脇役との扱いです。


ボランドの画は細密そのもの。
グラフィック・ノヴェルとして単行本出版の際に彩色を自身の手でやり直したそうですが、これも素晴らしい。
何でもモノクロ原稿は既にコレクターの手に渡ったりして散逸している為、カラー原稿をスキャンし、線画だけ抜き出し、それに彩色したものだとか。
元は『ウォッチメン』のカラリストだったジョン・ヒギンズによるもので、もっと派手だったそうです。
彩色をやり直しての効果は絶大でした。
ジョーカーの回想場面は、モノトーンの効果も大きい。
そんな中、ボウルに入っているタコや海老、ヘルメットの色が、いずれも淡いオレンジ系の色になっていて、特にタコと海老はグロテスク。
鮮烈な印象を残します。
本作が強烈な印象を残すのは、ムーアの原作だけではなく、ボランドの画と色によるところも大きいのです。


ラスト1ページが非常に謎めいています。
ボランドのあとがきによると、発表当時も物議を醸したようです。
読み手によって解釈も違うことでしょう。
私の解釈では…いや、ここではやめておきましょう。

バットマン:キリングジョーク 完全版 (ShoPro books)

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ムーア作品がこれからも色々と邦訳されると嬉しい。
法外な値段が付いてしまった『リーグ・オブ・エクストラ・オーディナリー・ジェントルメン』も、正・続で再販してもらいたいものですね。
映画の『リーグ・オブ・レジェンド』は全くつまらない代物でしたが、原作は面白そうなのです。
アメコミはすぐに絶版になるので、定価で出回っている間に読んでおけば良かったと、ずっと後悔しています。

リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン (Vol.1) (JIVE AMERICAN COMICSシリーズ)

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