days of cinema, music and food

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映画は遊んでくれる


イースタン・プロミス』のウルトラ・クールなヴィゴ・モーテンセンの写真をメイン・ヴィジュアルに使った、芝山幹郎の映画評論集の最新版を読み終えました。
もちろん、本書には『イースタン・プロミス』も登場します。
実は先日ご紹介したロバート・エヴァンスの『くたばれ!ハリウッド』は、本書に収録されていた映画版の批評文を読んで興味惹かれたのがきっかけなのです。
本書の合間に読み始めたら、一気に読み終えてしまった、という訳です。


それはともかく、本書は芝山幹郎らしく、過去の記憶を呼び覚まし、他の映画と比較し、といった上で映画と戯れている、映画批評のお手本のようなものです。
私がこの人の批評文が好きなのは、必ずしも映画の好みが重ならなくても、文章自体が読んでいて面白く、また納得がいくからです。
その特徴が良く出るのは、ある程度長めの文章の場合だと思います。
本書で言えば第1章に収録されている文章の数々がそれに当たります。
特にかつて『キネマ旬報』に連載されていた『オールモスト・クール』の文章は、どれも読み応えが十分。
取り上げられている『アウト・オブ・サイト』、『ラスト・オブ・モヒカン』、『未来は今』、『ファーゴ』といった作品の数々が、現代ハリウッドにおいて重要な監督たちの作品群です。
それらを著者が好むと好まざるに関わらず、自分が何故映画に乗れたのか、自分が何故好きになれないのかを、肉体や味覚、触感等、感覚を表現する言語を用いて綴ります。
感覚とは個人差が大きいもの。
感覚的な文章でありながら読み手に納得させるというのは、ある程度長い文章になるもの。
そして長い文章を読ませるというのは、文章力が高い証しでもあります。


ですから、本書後半の多くを占める見開き2ページ程度の批評文では、「何故そのような感覚を持ったのか、もっと説得してもらいたい」と若干の欲求不満に陥りました。
文章としては素晴らしい、と思いつつもです。
だったら本書の前身でもある『映画は待ってくれる』を読んで、連載の『オールモスト・クール』として楽しんだ長めの文章の数々に再び触れようと思い、amazonで注文しようかと思ったら既に絶版。
しかも6,000円と定価の倍の値段になっていました。
この手の本は見掛けたら買っておくしかないようですね。


閑話休題
かように本書には瑕疵はあるものの、極めて上質の映画批評本であるのは確か。
同時に上質の文章の数々に触れられます。
本好き、映画好きの方にお薦めしたい本です。

映画は遊んでくれる

映画は遊んでくれる

映画は待ってくれる

映画は待ってくれる