days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

The Art of Frank Frazetta


先日、HAMAさんのblogのコメント欄にて、HAMAさんとSFアートの話で少々盛り上がりました
その余勢でついつい熱帯雨林で購入したのが、フランク・フラゼッタの画集2冊です。
SF、ファンタジー系のアートで有名な、世界的に大きな影響を与えた画家、イラストレーターです。
ボリス・バレジョー(ボリス・バレホー)などはかなりフラゼッタの影響が濃いですね。
現代らしくよりエロティックな画風ですが。


フラゼッタのことを知ったのは、小学6年の時に書店で見つけたSF専門誌『スターログ』です。
同誌はSF専門誌といっても、映画、TV、小説のみならず、アートに関しても積極的に紹介していました。
私自身、映画が好きなだけではなく、弟と一緒に絵の教室に通っていたときもあったりで元々絵が好きだったので(但し才能は弟が全部持って行っています)、『スターログ』には飛び付きました。
スターログ』で知ったのはフラゼッタだけではありません。
フレンチ・アダルト・コミックの巨匠であり、『エイリアン』などのデザインでも有名なメビウスジャン・ジロー)。
大友克洋宮崎駿はこの人からの影響が大ですね。
ブレード・ランナー』で有名なシド・ミード
NASAに依頼された絵を数多く残し、また『2001年宇宙の旅』のポスターが有名なロバート・マッコール(つい先日の2月26日に亡くなりました)。
一時期はニューヨークの美術界の風雲児となったマーク・コスタビ(この人は実際は弟子に描かせていたのがバレて凋落したみたいですが)。
今思うと、自分たちは絵画鑑賞の趣味は余り無くとも、絵画展に連れて行ってくれたり、絵の教室に通わせてくれたりした両親には感謝ですね。


フラゼッタ作品で描かれる男女は殆どが全裸か半裸で、筋骨隆々か肉感的な体躯を誇っています。
彼ら・彼女らがダイナミックなポーズでもって暴れまわる描写は、「画面狭し」という言葉を想起させるもの。
構図からはみ出んばかりのダイナミズムは、数多の崇拝者・後継者たちも叶わないような印象を受けます。
筋骨隆々な男も、肉感的な美女も、ファンタジー系のアートでは珍しくありませんが、動的なポーズとダイナミックな構図が、フラゼッタフラゼッタたらしめているのだと思います。


今回購入したのは2冊。
ペーパーバック(と言っても大判)の『Legacy: Selected Paintings and Drawings by Frank Frazetta』(2008)と、中古ハードカバーの『Icon: A Retrospective by the Grand Master of Fantastic Art』(1998)です。
後者は復刻版がペーパーバックで出ています。


どちらもフラゼッタ初期の作品から、パルプマガジンやペーパーバックの表紙、挿絵、コミカルなタッチのコミック、『おかしなおかしなおかしな世界』やクリント・イーストウッドの『ガントレット』などのポスターアートなどがふんだんに収録されていて、ページをめくるだけでも楽しい。
アメリカではフラゼッタと言うと、ロバート・E・ハワードの『蛮勇コナン』シリーズや、エドガー・ライス・バローズの『ターザン』シリーズ、『火星』シリーズ、『地底世界ぺルシダー』シリーズなどが有名なようですが、確かにこれを最初に見せられたらかなり強烈だと思います。
モンスター系のデザインが単純なのは興味が無いからでしょう。
しかしそれらのポーズは最高。
そしてそれら脅威に立ち向かう男女の姿や蛮族など、人間に関しては独自のタッチが素晴らしい。
エアブラシを使わない荒々しい筆使いが、「ごちゃごちゃ言う奴は踏みつぶすぞ」とばかりの画風に直結しているのも見逃せません。
また、こちらに向かって来る脅威に対し、ヒーローもしくはヒロインが後姿で立ち向かう構図が多いのも特徴です。
フラゼッタ得意の構図なのでしょう。
迫力満点ですし、思わず感情移入をしてしまいます。
彼ら彼女らは命を賭した闘いを繰り広げるのでしょう。
その後に助かったのかどうかはもちろん分かりませんが、決して逃げないという強い意思表示がその後姿からは読み取れ、彼らにとって名誉を賭けた闘いでもあると感じられます。


SF系アートは一般のアートに比べて低く見られがちですが、観ている者に何らかのエモーションを喚起させる点において、他のアートと同等に論じられてしかるべきだと思います。
また描かれた時代性が伝わる点でも同様でしょう。
その意味ではフラゼッタのイラスト、油彩画は、単に煽情的なだけではない、原始の感情を思い起こさせる点で見事なアートだと言えます。


今更ながらですが、男だけではなく女も暴力に屈しない、もしくは暴力を振るう画が多いと同時に、女性蔑視的な描写も多い。
これはフラゼッタの体質というだけではなく、当時のパルプマガジンの内容を反映したものでもあるのでしょう。
また面白いと思ったのは、女性の筋肉が最近流行りの「柔らかい」筋肉質であること。
筋張った筋肉質は、フラゼッタの好みではないようです。


フラゼッタ若き日の写真も幾つか見られました。
この人自身がマッチョだったようです。
マチズモな画家・イラストレータを文字通り実践していたのですね。


どちらの画集も、フラゼッタの魅力を余すところ無く伝えてくれます。
画集にしては値段も安価なのに印刷も悪くなく、しっかりした製本ですので、お勧め出来ます。


Legacy: Paintings and Drawings by Frank Frazetta

Legacy: Paintings and Drawings by Frank Frazetta

Icon: A Retrospective by the Grand Master of Fantastic Art

Icon: A Retrospective by the Grand Master of Fantastic Art


こちらは復刻ペーパーバック版。

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こちらも見てみたい。

Testament: The Life and Art of Frank Frazetta

Testament: The Life and Art of Frank Frazetta


ところで『火星』シリーズの第1作、『火星のプリンセス』は現在映画化が進行中です。


ウィレム・デフォーが腕が4本ある強面で男気のある緑色の巨人、タルス・タルカス役とはぴったり過ぎでしょう(笑)。
火星のプリンセスことデジャー・ソリス役のリン・コリンズはちょっとイメージが違いますが、劇中では絶世の美女になっていてもらいたいものです。
バローズの原作そのままだと、受動的で古風な女性像は現代にはそぐわないので、かなりアレンジされているのは間違いありません。
また音楽がマイケル・ジアッキーノなのも期待大です。
アメリカでバローズとフラゼッタは切っても切れないイメージらしいので、逆にどんなヴィジュアルになるのか興味津津です。
不安もありますが、2年後の劇場公開を楽しみにしましょう。


一方の日本ではこの『火星』シリーズ、武部本一郎の挿絵のイメージですよね。
私は武部本一郎の挿絵も好きです。
1960年代、1970年代のSF関連書、もしくは児童向けのSFものの挿絵は、今風のものとは正反対に荒々しく、泥臭いのですが、それがパワーとなっていて子供心を惹き付けていたのだと思います。