days of cinema, music and food

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World War Z: An Oral History of the Zombie War


久々に読んだ重量級ホラー大作として読み応えがあったので、ご紹介します。
マックス・ブルックスの『WORLD WAR Z』がそれです。
「Z」は「Zombie」のZ。
これは世界がゾンビ禍に覆われ、くぐり抜けた後に生き残った人々のインタヴュー集という体裁の本なのです。


注釈も含めて全編徹底したノンフィクション・タッチゆえ、敷居はそれなりに高い小説だと言えます。
しかし小説としての主な流れもありました。
異変に始まり、怪異の蔓延、世界の崩壊、人類の徹底抗戦、戦争の終焉…といったものが描かれています。
その流れの中にある個々のインタヴューが面白いので、ついつい先を読みたくなります。
仮想インタヴューは短いもので数行、長いもので20ページくらい。
語り部は異変のあったと思しき中国奥地の医師、各国の一般市民、各国の軍人、政府上層部と多岐に渡り、北米だけではなくアジアや欧州にまで及びます。
その中には結構なページ数が割かれている日本人の若いオタクも含まれており、日本人から見ても説得力のある描写になっていて、作者の取材力に驚かされました。
もっとも、山に篭る別の日本人は神秘主義的なジャポニズムへの憧憬があって、読んでいてちょっと照れ臭くなりましたが。


懸命に生きようとする市井の人々もいれば、狡猾にもちゃっかりサギで儲けた人もおり、非情にも市民を餌に軍備を立て直そうとする政府高官など感情移入出来ない人もいるといった具合に、バラエティに富んだ内容が非常に興味深い。
また、インタヴューの体裁でありながら、迫力を感じさせる場面も多い。
ゾンビ・マニア向けのファン・サーヴィスとばかり、ルチオ・フルチの怪作『サンゲリア』もかくやという水中ゾンビまでうようよ登場します。
但し個々のパズルのピースが組み合わさって、世界規模の災害を再構築する内容となっているので、一般の小説とは随分と趣きが違います。
おまけに500ページ以上の大著ですから、挫折してしまう人もいることでしょう。
しかし架空戦記によって、長所や短所も含めた「人間」を描こうという壮大な試みとして、私は大変面白く読めました。


本書は映画化の企画があるようです。
レオナルド・ディカプリオのプロダクション、アピアン・ウェイと、ブラッド・ピットのプロダクション、プランBが映画化権争奪を繰り広げ、結果としてプランBが獲得したというニュースをご存知の方もいるでしょう。
映画化したら到底2時間では収まらないでしょうし、また超大作になるのは確実。
しかしこの内容そのままで映画になるのか、という不安もあります。
大作ゾンビ戦争映画ではザック・スナイダー脚本&製作の『Army of the Dead』という企画もあるようですし、恐らくそちらの方が娯楽性も高そう。
どうせならば、こちらには徹底したリアリズムで、世界規模の災害に対して人々がどんな行動を取ったのかを描いた映画にしてもらいたいものです。


WORLD WAR Z

WORLD WAR Z


尚、作者のマックス・ブルックスメル・ブルックスと故アン・バンクロフトの間の1人息子。
『サタデーナイト・ライブ』のライターの1人でもあったそうです。
父親もテレビのコメディ・ライター出身ですから、キャリアの出だしは似たようなものだったのでしょう。
また、親子3人のエミー賞受賞は今のところこの一家だけとか。
この人は本書の前に『The Zombie Survival Guide: Complete Protection from the Living Dead』という、架空のサヴァイヴァル・ガイドを書いているんですよね。
そんなにゾンビが好きなのかとも思いますが、この執筆経験が本書に生かされているのでしょう。
そのサヴァイヴァル・ガイド、実は数年前から知っていました。
当時の課長だったIさんが退職する直前に、M田さんと2人でIさんに図書購入費で買ってもらおうとした本だったのでした(^^;


The Zombie Survival Guide: Complete Protection from the Living Dead

The Zombie Survival Guide: Complete Protection from the Living Dead