days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Heart-Shaped Box


先週末の梅雨明けと同時に酷暑に苛まれている南関東ですので、ここは読んで涼めればとばかりに、ホラー小説でも紹介しましょう。
ジョー・ヒルの長編第1作『ハートシェイプト・ボックス』です。
この本を知ったのは、今は無きTBSラジオ番組『ストリーム』にて、豊崎社長こと豊崎由美が激賞していたのがきっかけです。
妻が先に読んでいたのですが、速読派の彼女にしては進みが遅い。
訊くと「怖過ぎる」のだと言います。
何でも「幽霊出過ぎ」だとか。
ではどんなものか読んでみましょうか。


50代になるロックスターのジュードはオカルト趣味がありました。
彼がネットオークションで「幽霊つきの黒いスーツ」を落札すると、周辺では怪異が発生するようになります。
真昼でも出現する老人の幽霊は、かつてジュードが捨てて死んだ女の義父と判明。
復讐に燃える亡霊から逃れるべく、ジュードと若い愛人ジョージアは逃避しようとしますが…


以前ご紹介した処女短編集20世紀の幽霊たち』も良かったですが、こちらも面白かった。
ヒルの実父がスティーヴン・キングと判明したのは記憶に新しいですが、偉大な父とはまた違った、ユニークな作家になりそうです。
キングと言えば日常描写に重きを置いた序盤がややかったるいものの、その日常が少しずつ崩れていく描写に読み甲斐があったのも事実。
日常や人物の描写が徹底されたのがまた、キングのペシミスティックなホラーにリアリティと重厚さを与えていました。


しかし息子の方はいささか作風が違うようです。
序盤からテンポ良く快調に話を進め、しかも語り口が上手い。
技巧もさることながら、若々しさが感じられ、それが勢いになっています。
そして父親と1番違うのは、オプティミスティックなところです。
よって私自身は全く怖くなかったけれども、最初から最後まで面白かったです。
モダン・ホラーの長編小説で怖い思いをしたことが殆ど無いので、まぁ想定内ではあるものの、楽しめることが出来ました。
キング作品でも御馴染みの名手・白石朗の翻訳文も非常に読みやすく、平易。
すらすら読めてしまいます。
お陰で父親と違って余り後には引かないのも確かですが、ここまで面白がさせてくれたら、もう十分でしょう。
変に老成するよりも、今はまだこれで良いと思います。
深みや余韻はまだこれから先に身に付けられる可能性があるのですから。


題名はグランジ・ロックの旗手だったニルヴァーナのサード・アルバムにして最後のアルバムに収録されていた曲とのこと。
ここら辺が父親同様にロック好きなヒルらしい。
また映画やロックなどへの愛情表現がストレートなのも、父親と違った個性でもあります。


映画版の企画も進行していて、脚色と監督は私の大好きなアイリッシュニール・ジョーダン
映画版の舞台も原作同様にアメリカになるのかどうか分かりませんが、ジョーダンの怪奇幻想趣味とこの題材はマッチするのではないか、という期待が高まります。
それにジョーダンと言えば音楽好き。
モナリザ』、『クライング・ゲーム』など、ポップスの曲名をそのまま使った映画もあるくらいですから。
これは楽しみです。


ハートシェイプト・ボックス〔小学館文庫〕

ハートシェイプト・ボックス〔小学館文庫〕

本書は版が変わって表紙も変わりました。
今出回っているのは、物凄い怖いものになっていますが…
小説を読んだ方は「あぁ、ナルホド」とお分かりになるでしょう。
アーティストは『20世紀の幽霊たち』同様にヴィンセント・チョンです。


ヒルはチョンとの相性が余程良いのか、今年2月に発表した長編第2作目の『Horns』でも組んでいるようです。
こちらも邦訳が待たれます。