days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

L'INCAL


拙blogもヒット数200,000を超えました。
ここまで続くとは思いもしませんでした。
これも日々ご覧になって下さる方々のお陰です。
今後とも宜しくお願いします。


アレハンドロ・ホドロフスキー原作、メビウスジャン・ジロー)画のフレンチ・コミック『L'INCAL アンカル』を読みました。
メビウス昨年『B砂漠の40日間』を読んでいたので、立て続けの出版は嬉しい。
この勢い(?)で、ブルーベリー・シリーズ等も日本語版で読みたいものです。


1980年代の約8年間に渡って発表され続けた作品をまとめたもので、いわゆるバンド・デシネ(bande dessinee)の1本です。
メビウスのコミックで完全な形で出版されたのは、これが殆ど始めてのようです。
本書の第1巻に相当する部分は『謎の生命体 アンカル』の名前で翻訳されたものの、続刊が無かったという事ですので、完訳で読めるのは喜ばしい。

謎の生命体アンカル (EUROPE BEST COMIC 1)

謎の生命体アンカル (EUROPE BEST COMIC 1)


冴えない探偵ジョン・ディフールが、偶然から宇宙全体の命運を左右する謎の生命体アンカルを手に入れてしまった為に、政府や宇宙征服を企む異星人、ゲリラ組織との抗争に巻き込まれるという内容。
これに当時流行ったニューエイジ的思想が色濃く表れたものとなっています。
娯楽色豊かなのですが、物語自体は壮大且つ複雑で、これはさらさら流し読みしても頭に入りきらない感じです。
私はホドロフスキーの映画『エル・トポ』も『ホーリー・マウンテン』も未見ですが、伝え聞く所によるとそれらはかなり瞑想的・幻想的内容とのこと。
その情報と併せて本書を読んでみると、物語自体はホドロフスキーの個性が出たものなのでしょう。


興味深い事に、終幕の「世界を救う為の犠牲」という要素は、以前遊んだXbox 360専用ゲーム『Fable II』を思い出させました。
偶然かも知れませんが、西欧的な命題なのかも知れませんね。
ラストの1コマも印象深いものでした。


さて本書最大の魅力は、これはもうメビウスの画でしょう。
ホドロフスキーの原作も面白いですが、メビウスの画があってこその求心力だと思います。
どこか微笑を誘うユーモラスな曲線と浮遊感、空間に関する感覚は、彼ならでは。
前述の『B砂漠…』同様に鉛筆による下絵を描かず、いきなりペンで書いたという線は直観的で自由奔放、それでいながらプロとしての計算も垣間見られます。
またオールカラー(彩色は別の人々)というもあってカラフルな世界がページ上に出現し、画を眺めるだけでも幸福感に浸れます。
こういう画を描く人は中々居ないですよね。


小野耕世や柳下穀一郎といった豪華解説陣による文章も内容に相応しいもの。
少々高価な本ですが、お勧めしたい本です。